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私は就職活動のためにスーツを買った。アルバイト代で揃えた。父に連絡すればきっと、あの車で一緒に買いに行くことになっていただろう。父は会社の経理で、いつも鞄にたくさんの書類を抱えていた。私は出版社に就職して、デスクにたくさんの書類を溜め込んでいる。私が就職を決めた話をしたときに、父は車が必要だろう、とだけ言い、卒業するまでに中古の車を一台用意してくれた。私はその車で通勤した。でも、私は休みの日に車に乗らない。私は地元から遠い町に住んだ。だから、父が倒れたとき、私は間に合わなかった。父はスーツで病院に運ばれたらしい。私があのアパートに帰ると、駐車場に父の車はなかった。父の車は、会社に置かれたままだった。礼服を着たおじいちゃんが運転する車には助手席におばあちゃんが黒のドレスを着て座っている。私は後部座席で、おじいちゃんの話に、うん、とかいや、とか短い相づちしかしていなかった。
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