大浴場

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Yさんが目撃した座敷の女。 場所は隠すが、ある幽霊ホテルの話し。 このホテルには、ロビーにある人物画の目が動く、という噂がある。 仲居Yさんの話しによれば、他にも、様々な怪異がある。 お子様連れのお客様が、Yさんを呼んだ。 娘が「床の間の隅にお爺さんが居る」と言って泣くのだという。 確かに娘さんは「ギャーギャー」と泣いている。 しかしYさんには、床の間のお爺さんの姿は見えなかった。 このクレームは、他の部屋と変わってもらい対処した。 Yさんが、目撃者になった事もある。 その日は、十階の担当だった。 チェックアウトの十時が過ぎて、部屋の備品の補充をしていた。備品の補充が終わると、委託している清掃会社が掃除を始める。 清掃会社が来るまでに、早めに補充を終えなければならない。 十階のフロアを二人の仲居で、二部屋と四部屋に分けて担当していた。 Yさんは、四部屋の方だ。 廊下の突き当りにある部屋に向かっていると、ドアの開いた座敷(和室)の前を通り過ぎる際、チラッと室内が見えた。 女が座っていた。 (あれ?何であそこに、人が座っているんだろう) すぐに引き返して確認すると、座敷には誰も居なかった。 翳んだ姿ではなく、生きている人ようにハッキリと、女の姿が見えたという。 「女は、どんな様子だった?浴衣姿とか?向きは、正面から見たの?」  Yさんに訊くと、彼女は記憶を辿りながら、 「横向き。普段着で、座椅子に座ってた」 Yさんから又聞きした大浴場の怪異譚。 このホテルには、利用客から「巨大な廃墟を思わせる」とレビューされる大浴場がある。 利用客のお子様連から「くっそ不味い料理」と酷評される太平洋の幸と合わせて、人気のホテルだ。 料理が不味いのは、料理人が厨房で客用の酒を飲んだくれて、酩酊状態で調理をしているからだ。 この料理人は、雇われてから一年間、毎日仕事中に酒を飲み続けて、終いには無断欠勤した。 仲間が寮に様子を見に行くと、一升瓶を抱えたまま冷たくなっていた。死因は判らない。 毎日の日課として、仕事の休憩時間に、ホテル近くの神社に参拝に行く、信仰心の篤い酔っ払いだったという。 彼の死を、誰も驚かなかった。忙しかったし、ホテルでは死者が出る事も良くあったからだ。 他のホテルが、どうかは知らないが、ここでは、だいたい1年に1人のペースで、客がホテル内で亡くなっている。 救急車がホテルの前に停まっている事がも年に何度もあったが、忙しいから事情を訊く暇もない。搬送先の病院での死亡も入れたら、もう少し死者の数も増えるかもしれない。 特に先述の大浴場で亡くなる客が多い。 仲居のHさんが、旦那様をホテルに呼んだ時の事。 旦那様は、例の大浴場を利用する事にした。 浴場に入り、湯船に向かうと、先客が居た。 湯船の縁に腰かけた老爺だ。 話しかけると、老爺は笑った。 「ここには色んなモノがいるから、気を付けな」 老爺と旦那様以外に誰も居ない。 変な事を言う人だな。 旦那様は、構わず湯に浸かった。 広い湯船を見渡すと、湯の中に何かが潜っているのが見えた。 ソレが、潜水したまま近付いて来る。 旦那様は、慌てて湯船から上がって逃げた。 「Hさんの旦那様が言うには、湯の中を黒いモノが近付いて来たって」 「黒いモノって、どんな感じ?液状とか、人の形をしていたとか」 「黒い塊だったって」 この大浴場は男湯であって、混浴ではない。 あるお子さん連れのお父さんが大浴場に行くと、幼い娘が泣く。 「お爺さんとお婆さんが、いっぱい座っている」からだという。 了
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