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「本当のことしか話せなくなった」
彼氏に突然告げられた。冗談かと思ったが、表情が険しい。
「えーと、つまり、嘘がつけなくなった」
そこまで言うと、彼は慌てた様子で口ごもる。
本当に嘘がつけないとしても、こんなに慌てるってことは、もしかして。
「浮気してるんじゃないの?」
「……うん」
うわぁ、まじか。
私はショックを隠しつつ、努めて平静に質問をしていった。彼の壮大な冗談かもしれないという期待も込めて。
「ねぇ、私ってかわいい?」
「……ブスだよ」
「私って太ったと思う?」
「……痩せたと思うよ」
「私のこと、好き?」
「……嫌いだよ」
詰まりながらも答える彼を見て、この症状は本当だと思った。残念だけど。
彼は泣きそうな顔をしていた。私のほうが泣きたいというのに。
私は別れを切り出す前に、最後の情けで病院に連れて行くことにした。
診察の結果、聞いたことのない病名を言われた。どうやら薬を飲めば一週間くらいで治るものらしい。
安堵の表情を浮かべる彼を見て、少し拍子抜けした。秘密が全てバレてしまったというのに、治るとわかったら安心するのか。私のことはどうでもいいのか。
「じゃあ今のうちに、本音を全部聞こうかな」
嫌味を込めて彼に言ったが、反応したのは先生のほうだった。
「あぁ、勘違いされる方多いんですけど」
「これ、嘘しか言えない病気です」
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