『From Dusk Till Dawn 前篇』

2/8
前へ
/34ページ
次へ
1. 行方不明(ミッシング)と書いてあるビラに印刷された少女の写真を眺めて、不意に流れた涙が頬をつたう。 「……シャロン」 その涙を手で拭い、ぼくは妹の名前を呟いていた。口から漏れた白い息が寒空の下に溶ける。 モノクロで解像度の低い写真の中でにっこりと微笑みながら、ピースサインをするシャロン。 十六歳の誕生日に二人で撮った写真だ。ショートカットにパーカーという姿の妹は、どこか中性的な雰囲気を漂わせている。 隣にいるはずのぼくはフラッシュに驚いて白目を剥いていたことだろうーーそれを見たシャロンに笑われたっけ。 そんな妹との何気ない日常を思い出して、大きくため息をつく。 シャロンは姿を消した。 何の特徴もない、どこにでもあるような地方都市のこの街で。 「妹を捜しているんです。この顔に見覚えはありませんか。どんな情報でもいいんです。何か知っていたら、この電話番号にーー」 ぼくは目の前を通り過ぎていく人たちにビラを差し出した。 けれど、街一番の繁華街を忙しなく移動する通行人たちは知らんぷりを決め込んでいるようだ。 手に取ってくれる人もこちらに顔を向ける人さえいない。無表情の顔で足早に歩き、立ち止まる様子もなく去っていくだけ。 ハア、とぼくは再びため息をついて、足下に置いた大量のビラの山を見た。 真冬の風に飛ばされないよう、用意したそれらをまとめて紐でくくってある。街灯がちらほらと点きはじめ、かじかんだぼくの手の感覚はほとんど無くなってきていた。 ぼくは焦っていたのだろう。 最初から覚悟を決めていたほうが良かったのかもしれない。いや、薄々は気づいていたのだ。 何も言わず帰ってこなかった時点で。 事件か事故に巻き込まれたのだ、と。 最悪の場合、シャロンはもうこの世界のどこにもいないのだ、と。 ブロンドだった地毛を黒に染めるほど目立つのが苦手な妹の友達の数ーーその見た目から同姓のファンは多かったがーーはそう多くない。 異性の話となればさっぱりだった。 彼氏の家にでも泊まっているのだろう、と友人が気を紛らわせてくれたけれど、そんなことはありえないのだから。 けれど、当時のぼくはそれでも妹が生きているという希望を捨てきれていなかった。
/34ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加