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2.
ぼくたちがよく利用していたダイナー〈フロム・ダスク・ティル・ドーン〉の営業時間は、名前の通りFrom Dusk Till Dawnだ。
開店直後のちらほらと客がいる店に入ると、ダレンはすでに席についていて、注文も終わらせていたようだった。ぼくの分まで済ませてくれたらしい。
ダレンはぼくに気づき、
「いつもので良かっただろ」と、席に座ったまま手を振る。
「うん。ありがとう」
そう言って、ぼくもダレンの正面に座った。
窓際の、通りを行き交う通行人たちや車を確認しやすい席で、配りきれなかったビラの余りを空いてる箇所に置かせてもらった。
こんな瞬間にも、ぼくはシャロンが見つかるのではないか、という淡い期待をせずにはいられない。
「いつもこの店に来ると思うんだが」
けれど、シャロンの話題から逸らすようにダレンは適当な話を始めていた。
「ダイナーってのはどこも深夜営業だ。なのに、なんであんな名前なんだ」
「さあね」
「確か、同じ名前の映画があったよな」
ぼくは適当に話を聞き流しながら、テーブルの上に置いてあったコーヒーを飲む。
ダレンが先に注文していたのだろう。すでに温くなっていた。味は、甘党のぼくがたっぷりのミルクと砂糖を入れてちょうどいいぐらいだ。
「絶対、ここのオーナーはあの映画が好きなはずだぜ」
と、ダレンはコーヒーをブラックの状態ですすった。
スプレーでかっちりと固めた髪型が特徴的なこの色黒な男とは五年ほどの付き合いがある。
同じアルバイト先の同僚で、仕事終わりに閉店間際のこの店でかなり早めの朝食をとっていたのだ。学の無いぼくたちの少ない時給の一時間分でもこの店は、サンドイッチとドリンク、それに、付け合わせまで組み合わせることができる。
「それで、どうやってシャロンを捜そう。二人で捜すのは無理があるってのはわかっているけど、誰も相手してくれないだろ」
「俺も分からん」
ダレンは肩をすくめて、
「人っていうのは見たいもんしか見ないからな。俺だってそうだ。興味を持たせさえすれば、人数を増やせるかもしれんが」
そこで、ぼくたちは考え込む。
ややあって、ポンッ、とダレンが手を叩いた。
「あれをカミングアウトするってのはどうだ。まずはお前に興味を持ってもらうんだよ」
「どういう意味だよ、それ」
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