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3.
どうして、こうなったのか。
ほんの数十分前まで、ぼくたちは冗談を言ったり、下らない会話をしていたはずだ。
「あ……あ、あああ……」
それなのに今、情けない声を上げ、ぼくはその場で突っ立っているだけしかできなかった。
目の前でダレンが殺されている。
スナッチャーに殺されたはずの二人の犠牲者たちの手によって。
片腕をもぎ取られた少女と両足を切り取られた女性が、ダレンの身体にまとわりついて、その逞しい首に噛み付き、真っ赤な血を滴らせながら健康的な肉を貪っている。
「ロ、ロッソ……助けて……」
徐々に光を失っていくダレンの瞳がぼくを捉えた。救いを求め、手を伸ばすが、それさえも犠牲者の一人ーー膝から上しか残っていない女性のほうだーーが骨付き肉のようにむしゃぶりついている。
けれど、ぼくは怯えて息を殺すことしかできなかった。
最低な奴だなと思う。
必死で支えてくれた親友を見捨て、その屍体を利用するなんて。
あの日、あの時、あの場所で、あの提案を断ってさえいればダレンはまだ生きていたのだろうか。
早めの夕食をダイナーで終えた後、一度別れてから自宅で仮眠を取って、真夜中にぼくたちは再び合流したのだ。
場所は、警察署の隣に建てられた死体安置所。
警察署は街の中心部から少し離れた繁華街とは正反対の位置にある。自宅からも距離があるので、ぼくはダレンが運転する古い日本車に乗せてもらった。
「深夜、モルグに忍び込む。いやぁ、ぞっとしないね」
「なんで楽しそうなんだよ……」
ぼくは周囲を警戒しながら、ダレンがピッキングを終えるのを待った。どうして、そんな技術を持っているかはあえて聞かないでおく。
「ちゃんと見張っておけ」
シャロンに対しての不安と目の前で起きている行為に対して緊張がごちゃ混ぜになって、実はこの辺りはよく覚えていない。
生まれて初めての犯罪行為を目にしているのだから。
「サツに見つかると厄介だ」
ドアの前でしゃがみこんだダレンが言った。
口で懐中電灯をくわえて、両手に持った針金か何かを器用に鍵穴の中で動かしている。
「警察の目の前で不法浸入とはね。シャロンのためとはいえ、どうかしてるよ」
と、ガチャ、という音がしてドアが開いた。
「レディ・ファースト」
ダレンが奥を手で示し、そこには真っ暗な空間が広がっている。
「誰がレディだよ」
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