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再びの夢
「雪姫」
―――声が聞こえた。
―――私を呼ぶ声が。
「……雷召(らいしょう)」
声が勝手に出た。
ただ『雷召』という響きに妙に懐かしさを感じ、声のした方向に向かった。
……男がいた。
いや、男というより、青年と言ったほうがいいだろうか。
翡翠色の瞳に、黒い髪が別世界の人間の様に思わせる。
しかも、かなりの美形だ。
「…雷召?」
その、青年―雷召は、雪姫の姿を見るなり微笑んだ。とても嬉しそうに。
目を奪われた。
(綺麗……。目が離せない……。)
そう思うほど、雷召の笑顔は魅力的だった。
―――カタ
音が聞こえた。と、そう思った。
体の中の、何かが外れた。
途端に、自分でも何なのか分からなくなるほどの激情が、雪姫の中で渦巻いた。
「雪姫?」
異変に気が付いたのか、雷召が心配そうに覗き込んできた。
雪姫は、雷召の視線から逃げるように顔を背けた。
雷召の顔を直視できなかった。
雷召の瞳は、吸い込まれそうなほど綺麗で、その瞳で見つめられると、自分でも顔が赤くなっているのがわかるくらい熱くなるのだ。
しばらく、そっぽを向いていると、雷召の気配が離れていくのが分かった。
雪姫は急に不安になり、顔を上げた。
そこで、目に飛び込んできたのは、不安そうな雷召の顔だった。
「雪姫、早く帰ってきてくれ。……でないと俺は……。」
最後の言葉は聞こえなかった。いきなり雷召の体が透けていってしまったのだ。
「雷召!!待って!」
気が付くと叫んでいた雪姫だが、その願いが叶えられることはなく、雷召は消えていった。
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