お嬢様のお城のお話

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お嬢様の云う『あの人』とは誰なのか。 ずっと前に一度聞いたことがあるけれど 興味がなかったから忘れてしまった。 昔近所に住んでいたんだっけ。 お嬢様は『さて』と意気込む。 おもむろに立ち上がると先ほどシブがお嬢様と間違えた人形(おじょうさま)。 正面の鉄格子の前でしゃがんだ。 そこには、小さく縮こまって体育座りをしたもの。 お嬢様は、 狂ったものを見るような笑顔で話しかける。 「ねぇ、これ食べない?」 「………」 「ほら、美味しそうよ。 さらさらで良い匂いもするの。貴女のよく知ってる匂いよ」 「………」 「ほらほら、ちょっとでいいからかじってごらんなさい? きっと病み付きになるから」 「……」 「ちょっとでいいの、ちょっとだけ」 「……」 「食べなさいよ…食べなさいって………… 食えっつってんだ!!」 皿が鉄格子に向かって放られ割れた。 私が切り揃えた髪が散らばる。 お嬢様の激昂(げっこう)で場の空気が凍りつく。 誰も何も言えず動かない。 私は、よくその憤怒の声で叱られるから慣れているが シブは、吃驚したらしくまた一歩引いた。 そこに割り込んだのは、泣き声。 私でもシブでもお嬢様でも人形(おじょうさま)でもない。 キッチンから一人の子供が姿を現した。
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