AM8:24

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*  中里と私は同じ高校の同級生だ。  小学校、中学校も同じで長いつきあいではあるが、いわゆる「幼馴染」とは異なる。  クラスは小学校六年の時に一度だけ一緒になったきりだ。その頃はいろいろ絡んだりしたけれど、高校生になってからは文系と理系でクラスが違うこともあり、基本的に話すことはない。  そんな中里と東京へ向かうバスに乗っているなんて不思議な話だ。   「私、長距離バスって初めてかも。遠足とかのバスより全然座り心地いいんだね」  昔、遠足で乗ったバスよりも柔らかな座席の左側に一つ席を開けて中里が座っている。当日券を問題なく購入できた私はこうして、バスに揺られている。 「中里はなんで東京に行くの?」 「姉貴んとこ行くため」 「お姉さん? ああ、そういえば少し離れたお姉さんいたよね」  私が小学校低学年だった頃に、中里には既に制服を纏ったお姉さんがいたことを思い出した。いまの私が高校三年なのだから、中里のお姉さんは二十代半ばぐらいになってるんだろうか。  中里は私と会話をする気はないのか黙ってしまった。 「東京まで時間あるんだから少しは話そうよ」 「長距離バスはフツーみんな静かにするんだよ。オレ、あんまり寝てないし寝たいんだけど、いいかな?」  そう言うと、私の答えを聞くこともなく、バス会社が用意してくれたブランケットを身体にかけると目を閉じてしまった。  言われてみればバスの中は静かだった。  郷に入っては郷に従えと言うし、私も静かにしていよう。  しばらくは窓の向こうの景色を眺めていた私だったが、ブランケットに包まっているうちにウトウトしはじめ、いつのまにか眠ってしまった。  そういえば、私もあんまり寝ていなかった。
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