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PM3:35
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「……おい、起きろ、芹沢」
揺さぶられながら誰かの声が聞こえた。重たい瞼を開けると中里の顔が見えた。
「もう、着いたぞ」
「……え?」
「『え』じゃねーよ。もう東京」
爆睡してしまったらしく、旅行気分に浸る時間もないままに東京へ着いてしまったらしい。途中休憩もあったはずなのに寝ているうちに過ぎてしまったのか。
慣れない体勢で眠ったせいか身体のあちこちが痛い。私は両腕を天井へ突き上げて伸びをする。
中里はリュックを背負い、降りる準備を始めた。私も慌てて自分のカバンを持って、バスを降りた。
バスを降りると周囲が騒がしかった。
高いビルが並び、多くの人が行き交っている。多いなんてものではない。事故で電車が動かないときの駅みたいに人が溢れている。
新宿だ。
ここは新宿なんだ。
東京には修学旅行でも来たことはあるが、あのときは前もってスケジュールと行先を理解していた。今日の私は徹底的に準備不足だ。
私は現在地がどこなのかさっぱりわからなかった。
「じゃ、オレは行くから」
「ちょっと待って、一人にしないで」
「は?」
怪訝そうな顔をした中里に私は何を伝えればいいかを考えた。しかし、それよりも先に中里が口を開いた。
「芹沢は東京に何をしに来たんだ?」
「…………夏休みになったら東京の予備校通うことにしてて。その手続きに」
これは本当に考えていたことだ。
ただ、今日、そのつもりで東京に来たわけではない。
「そんな手続きぐらいならネットで出来るんじゃないのか?」
「あー……大学見学も兼ねて」
「そうか」
それ以上、追及はされなかった。追及してほしい気もしたが、この場をうまく取り繕う方法が思いつかなかった。
中里が歩き出し、私もそのあとに続いた。
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