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心臓検査
今、自分は或る大学付属病院の検査室に居る。先の患者さんがようやく終了した後で次に呼ばれたのが私だった。
馬鹿だよね、先の患者さんが美人だったからと云うだけで、長らく待たされたのに苦にもならないなんて。
「患者さん・・あなた相当タバコを吸われるんですね⁉ 何歳ぐらいから吸い始めました?」
自分は数週間前にインフルエンザと診断をされた。完治後も再診の必要があると、先週に来院していた。
その際、心不全だとか不整脈だとか言われ、半ば押し付けで今日の予約をさせられて精密検査を受けている。それなのにどうしてタバコの話なんだろう?
「えっ今、心臓のエコーを撮ってるんですよね⁉」
「それがね・・タバコのヤニで真っ黒くなった肺が邪魔をしてしまってね・・心臓が診れないんですよ⁉」
「タバコを吸ってる方ってみんなそうなんですか?」
「いいえ斎藤さん、あなたは特別みたいですね⁉ 私もこんなの初めてですね。」
こんなの初めて?そんな馬鹿な、自分は一日に一箱程度の喫煙者だ、自分よりはもっとヘビーなスモーカーも知っている。肺が邪魔をするというならそこにヤニが有る無いは関係ない筈だろう!
「先生・・どうなんですか?検査出来るんですか?」
「いや、無理ですね。まずはタバコを止めることですね。」
私が検査室を出ると一人の看護師が追いかけて来た。
「斎藤さん、次は血液検査ですが検査室の場所って分かります?」
そう言いながらA4サイズのファイルを私に手渡そうとした。
「いや、もういいです!」
「なにが?・・血液検査しないんですか?」
「ええ、もう良いんです。」
結局この日は何の検査もしないで大学病院を後にした。
店に戻るまでの車中では、あの年老いた先生の言葉が何度も繰り返し頭に浮かんでは消える。まるで壊れたレコーダーのようだ。(タバコを止めることですね)
今日は心臓の検査を勧められて心電図検査室に飛び込んだが、部屋ではディスプレーのLEDライトの明かりだけで人の顔も判断も出来ない。
だがその担当医師が高齢であることだけは何故か完治できたのである。
それって私が天才なのか・・そんな余計なことを考えながら、医師の指示に従って仰向けの姿勢でベッドに体を預けた。
「患者さん・・シャツをめくり上げてもらえますか」
私はシャツを首の近くまでめくり上げた。先の美人さんにも同じことを言ったのだろうか・・この助平医師め。
「ゼリーを塗りますので少し冷たいですが宜しいですかね?」
「えぇどうぞ・・クソ!」
こんな感じで始まった検査だったが、私の肺が邪魔をして検査が出来ない⁉・・さらに驚いたのはその肺がタバコのヤニで真っ黒だと言った。CTでもなければMRIでもない、これまで私が経験したエコー検査ではすべてがモノクロの映像だった。つまり白か黒でしか表現できないのがエコー検査の筈。それが真っ黒だと言ってたよね、肺胞って普通レントゲンなんかの場合は炎症が有れば白くそれを表現するはずなのに?・・ん・・私には分らん?
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