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短気
「ハナ……!!」
ハナの声だと分かった途端に、ソーマは隠れながらも体育館の入口に近ずいていた。
だが体育館の中を見るのが怖い……でも見なくちゃ。何が起こっているのか、確認しなきゃ。
そして警察を呼びに行くんだ。そしたら、もしかしたら多分ハナも助かる……!
そうだ……!助かる!ハナを掴んでいるやつにバレないように、こっそり確認しろ……!
「あ……」
そしてソーマは見て後悔した。
自分と同じ制服をつけた生徒が目の前で力なく倒れていた。
一番目の前の人はおでこより上が無かった。
脳みそを食われていた女の子だった。
その後ろにはもう300人ほど、
頭、腸、太ももなどが千切れていて、目玉の無いやつもいた。
俺がトイレに行く前は、生きて喋って動いていた人達だ。
「うぐっっっっっううっっっ……!!!!!!」
強烈な吐き気に襲われた。
ここで吐いたら音でバレて俺も食われる。
頭にベチャッと張り付いた【死】の恐怖が、ソーマの吐き気を抑えていく。
ソーマは口に溜まったものを飲み込んだ。
「よーしみんな!おなかいっぱいか?それは良かった。久しぶりのたーくさんのご馳走だ。だが、生け捕りは忘れてないだろうな?1.2.3...」
舞台の上から降りてきた黒い服のイケメンが、ごつい人型の化け物を数える。
10体は居そうだった。
化け物は一人、一人ずつ人間を捕まえていた。
そこにハナがいた。
「離してよお!!みんな殺して!食い散らかして!!こんな酷いことして、私たちが何をしたっていうの!!」
「ちっ。このガキうるせーなー。食えばよかった。」
ハナを掴んでいるごつい化け物がキレ始めた。
カイトが答えた。
「何をって。別に、君だって牛さん豚さん鳥さん殺して食うでしょ。お腹が空くから。君がそこにいるから食べるんだよ。」
「何言ってるのかわかんないよ!!!」
少し泣きながらハナは叫んだ。
「まあ急に食べられる対象になったら分からないだろうね。まあ君は食われはしないよ。安心して。僕達と同じ"人喰い"になるんだ。」
ソーマはやっとこいつらが何なのか気づいた。テレビで言ってた特徴と合ってる。目が赤くて、耳がとがってる。
というか、早くハナ助けなきゃ!でもどうやって?俺が?あそこに飛び出したって死ぬだけだ!
1番最善策はなんだ……!そうだ…!ここから離れて警察を呼ぶ
いやそれじゃあ数分後にはハナも死ぬか、人喰いになってる!
じゃあ!!俺はどうすればいいんだ……!!
「あなたたちと一緒になるなんてやだ!!
イヤだよぉ!!!離して!おうちに返して!」
「ピーピー喚くなよガキがぁぁぁ!!!食い殺すぞっっ!!」
ハナを掴んでる人喰いがブチキレた。
「全く短気だなあ。力強いと短気になっちゃうのかい?ギム」
ギムという人喰いは大声を上げた。
「ああそうだ!俺は短気だ。だからどうした!生まれた時から俺は短気なんだよ!だから決めたぞ!!
今ここで俺はこいつを食う!!異論ある奴は居るか!?おい!!!!」
「ひっっ…!」
実際に食うと言われて、ハナは恐怖に満ちた。
館内は静まり返り、反論はない。
「残念だったな。女。俺たちの仲間になればまだ生きれたのに。俺の言うことを聞かないから死んじまうな。
しかも俺の腹の中で!俺の栄養となって。ぐひひ!愉快だなぁーーー、おい。ひひ」
「……ごめんなさい。私、静かにするから……」
ハナは小さくて震えた声でそう言った。
「はああああん??遅えよ!!バァカか?もう決まった!決まったことは守らなくちゃな!!俺はなあ?律儀なんだよ!」
にぃぃぃと人喰いのギムが笑った。その歯と歯の間からはヨダレが溢れ出て、
ボタボタドロドロとハナの頭の上に、生暖かいヨダレが垂れてくる。
「あ、、、あ、、、」
ハナは恐怖で言葉が出なかった。
ソーマは焦る。助けたいのに助けられない!このままではハナが死んでしまう!!!
助けなきゃ!!でも!!
「よーし、じゃあいただきマース。くひひ」
「あ、、、あ、、」
でも!!俺も死ぬっ!!でも!!動け!!助けろっ!!怖い!!いけっっ!!イヤだっっ!!
1秒で色んな気持ちが頭の中でパンパンになった。
そしてソーマの目がはっ、と大きく開いた。
一瞬、ハナの恐怖に満ちた顔が、
いつものとびっきり綺麗な笑顔と重なったからだ。
「やめろおおおおおおおおお!!!!!」
そう言ってソーマはギムという人喰いに走っていった。
今までで1番の猛スピードと剣幕だったと思う。
その勢いで、人喰いをひるませ、何かの拍子にハナだけでも逃げ出せたら……
自分にはその方法しか思いつかなかったんだ。
ソーマは、死体で埋め尽くされた地面を思いっきり駆けた。
必死だったから、殺された人を踏んでいることにも気づきもしなかった。
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