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ガラッ。
「すみません。三間の状態を見に来たんですが……」
「あっ、蘭くん。三間くんならまだ寝てるよ」
養護教諭が顔を向けた方向にある、カーテンが閉じられたベッドに向かって俺は歩いた。
中を覗くと、少し顔色が戻った三間が寝息をたてて寝ていた。
俺は近くに置いてある椅子に座って、その様子を眺めていた。
ふいに三間の睫毛が震えた。
目蓋がゆっくりと開き、琥珀色の瞳がそこから覗く。
「うぅ〜ん、……? ──ッ!?」
少しボンヤリとした様子だったが、三間はすぐにその瞳に理性を取り戻し、ガバッっと起き上がった。
「は、は? ここ保健室? えっ、なんで? ──っ仕事! 仕事しなくちゃ!!」
「おい! 落ち着け。とりあえず今は休め」
「えっ、ぇえ! 会長!? 何でここに? どゆこと!?」
三間は混乱しているのかひどく慌てている。
「仕事のことなら心配するな。切羽詰まった書類は今のとこ無い。お前はもう少し休め」
俺が落ち着いた声で言うと、三間も段々理解し始めたのか徐々に落ち着いてきた。
三間がか細い声で俺に尋ねた。
「……会長ぅ? ……会長だよね? どうしてぇ……?」
「……今まで本当にすまなかったと思っている。お前をここまで追い詰めてスマン……」
俺は三間の呆然とした顔を見つめて、後悔の滲んだ声で謝る。
瞬間、三間の瞳から涙がこぼれ落ちた。その顔から読み取れるのは、困惑、悲しみ、苦痛、怒り、そして───安堵。
「ぅっ、うわぁぁぁーーんん!!」
三間が大声を出し、泣きながら俺に抱きついてきた。
「ヒッ、ヒッグズッ、ズズー、ううぅ〜会長〜。もどってきてくれて、よ”がっだ〜」
「……散々迷惑かけた俺が言うのも変だけど、今までよく頑張ったな。本当にありがとう……」
三間の頭を撫でながら俺は精一杯感謝の気持ちを込めて、三間に言った。
「うぅ〜、オレ、今までちょ〜、頑張ったんだよ……? 仕事はたまるわ、風紀にはせっつかれるわ、休む暇も無くて……」
震えた涙混じりな声で言う三間には、今にも消えそうな儚さがあった。
「とにかくお前はもう少し休め。後のことは俺がやっとくから」
「……うん」
俺はそう言って椅子から立ち上がった。
近くにいた養護教諭に三間の事を頼み、俺は入口へと踵を返した。
扉に手をかけた瞬間、会長! と後ろから三間が声をかけてきた。
「……会長。また明日」
振り返ると不安に揺れた目で三間が俺を見つめていた。俺が戻ってきたことがまだ心のどこかで信じきれてないのだろう。
だから俺は三間に安心させる為に、できる限りの優しい声を意識して、また明日と返事を返した。
三間だけに限らない。
他の生徒でも言えることだが多くの生徒が俺たち生徒会に不信感を抱いてるだろう。
失った信頼を取り戻すことは難しいかもしれない。
それでも俺は生徒会長としてまだ諦めたくない。
そう決意して俺は今度こそ保健室から出ていった。
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