殺人を愛する君たちへ

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この人たちが吊った。そんな衝撃的発言をしたにも関わらず内村の表情は一切変わらず、綺麗な花でも紹介しているかのごとく朗らかであった。 誠は講義にほんの少しだけ興味を持ち始めていた。たくさんの語学を学ぶことに憧れ1年間必死に受験勉強をこなし合格を手にしたものの、入学後結局挫折し英語学のみの1番簡単なコースを進んでいた。高校と違って定期的なテストを行わないため、ただ淡々と授業だけをこなしていた誠は学期末のテストでようやく周りとの違いに気づいた。言語は日々の積み重ねが命だ。これから頑張って追いつく未来が描けず、2年のコース決めで得意だった英語に絞ることに決めた。 特に後悔はないし、むしろ程々の勉強に抑えることで大学生に与えられた膨大な時間を多方面に分配できてラッキーだと思う。だけど初めて授業に興味を持った。内村は「差別」について考えるのではなく「暴力」について考えようと言った。どういう意味だろう。初めて講義を単位の取得関係なしに真面目に聞いてやろうかと悩んでいる。僕は今猛烈にこの突如現れた非常勤講師に揺さぶられている。もしかしてこいつ昔はやんちゃしてたんだとか言い出すのではないだろうか。「俺はGTU!Great Teacher Uchimura!!」みたいな。ないか。もうちょっと細かったらあったかもしれないけど流石にないか。 「この不気味な果実が描かれたのは「それでも夜は明ける」という映画です。そうですね、これAmadonで100円くらいで借りることが出来ますので、次回までの宿題に致しましょうか。教科書購入より安いでしょう。 黒人差別問題がよく描かれていて素晴らしい作品ですがね、皆さんこれはやはりエンターテインメントなんですよ。伝えたい問題をエンターテインメントにするためにどのような工夫がなされているのか、少し注目してみてくださいね。」 開始30分で課題の話をしている。こいつはなかなかやるな。褒めてつかわそう。 「ではそうですね、今日は現地で実際に撮ってきたミュージアムの写真があるので少し見てもらいましょうかね」 前言を申し訳ございませんが撤回させていただきます。……全然二流じゃねえか! 誠はツッコミながらもスマホをしまいシャーペンに握り変えた。
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