殺人を愛する君たちへ

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「黒人差別にも様々な歴史がございますが、歴史の講義にするつもりはありませんので。この大学に入れた賢い皆様は何となく知っているでしょう。昔アメリカはどうやら奴隷制度を採用していたらしいと。そこら辺の説明はいたしませんよ」 内村は教卓に置いたパソコンをカタカタと弄りながら1度も前を向かずに話した。 「あ、これでも見てもらいましょうかね」 スクリーンに映し出されたのはさっきの写真と打って変わっていて、何の変哲もない記念碑のようなものが一面にズラっと並んだものだった。比較対象がないから分からないが成人男性くらいの大きさなのか、縦長の四角い銅色の記念碑がたくさん天井からぶら下がっている。陽の光が入り込み錆びた銅を斜線上に焼いている。屋外に天井つきの廊下のような道を用意して飾っているのだろう。 銅の棒には文字が書かれていた。1番近いものには「CARROLL COUNTRY MISSISSIPPI」と上に大きく記載されていて、下に小さい文字で縦に20列くらいと横に2列、何かが書かれていた。ミシシッピ。アメリカにあるところだよな。ミシシッピ川だけ何故か知ってるし。後ろの方にもなんちゃらミシシッピと書いてある。地域に分かれているということなのだろうか。 「こちらは黒人差別によるリンチで亡くなった方々の名前が記されています。ちょっと手前のものをアップで撮ったものを出しますね、こちらです」 左列には人の名前がずらりと並んでいて、全員の名前の下に"03.17.1886"と書いてある。恐らく殺された日付だろう。この日に40人亡くなっている。ミシシッピの中でも1部の地域で。一日で。同じように右列にも名前が書いてあるかと思いきや、そこには無機質に"No Name"が並んでいた。 「分かりますかね。右側ほとんどNo Nameって書いてあるでしょう。名前がわからなかった人もいますよたまたま来てたとかで。けど顔が分からないくらい酷かったという方が多いんでしょうね。皆さん暴力というもの、想像がついてきましたかねえ。」 思ったより早めに問いが出るらしい。正直ピンときてはいない。 自分たちで吊るしておいて不気味な果実だと言って喜んでいた白人たち。名前も知られず寄ってたかって殺された人たち。 なんだか、こう、なにかモヤモヤとしたものはあるがよく分からない。これで暴力は何かと聞かれてもよく分からない。 皆、分かるのだろうか。淡々と問題集を解き間違えた部分を暗記して乗り越えてきた僕は、考える能力が劣っているのだろうか。 「最初に言った通り、各々自分なりの暴力の形があると思います。いいんですよそれで、すべて正しいんです。ただね、たまに一部勘違いする方がいらっしゃるんですよ。 暴力がいかに理不尽なものか皆さんわかってきたでしょう。今なら皆さんもしかしたら勘違いせずに済むかもしれませんよ。 暴力が"何処"で起こるのか、ということです」 ……ん?何処?場所? えっと、 え、路上?
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