小説「自分探しの旅」

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 彼らは皆、若者との旅に喜んで加わった。総勢十四人の自分で共に食べ、語り合い、安宿で眠る旅は楽しかった。  だが、若者には新たな悩みが生まれた。  なぜこんなにも簡単に自分が見つかるのか。しかもポンポンと異常発生している。自分が十三人いる光景は、正直、シュールだ。 「インドだからだよ」  悩める若者に、仲間の青年が声をかける。 「インドなんだから、何だってあるさ」 「そうか……? そうかな……?」  若者は首をかしげつつも納得しようとした。いくらインドでも、無理があるのではないだろうか。  そうこうしているうちに、若者の日本への帰国日になった。最後の宿で、若者は自分そっくりの仲間たちと輪になって座った。 「皆、聞いてくれ。俺はもう日本に帰国しなきゃいけない」  若者の話を、十三人の仲間が聞いている。 「インドの旅がこんなに楽しいものとは思わなかった。それは、皆が仲間になってくれたおかげだ。俺は正直、ずっとインドにいたい。けれども、いつまでもここにはいられないんだ」  若者はうつむき、座った膝の上に置いた手を握りしめた。 「君たちと、離れたくない」  若者の頬を一筋の涙が伝った。 「共に、ずっと一緒にいたい」
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