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エッセイ「むくろじ」
2023年の2月、作家の田口ランディさんが、私の夢の中に現れた。
ランディさんは片手で持てるほどの大きさの、土入りの鉢を持っていた。そこには一本の無患子の苗木が植わっていて、ランディさんは鉢ごと私に苗を手渡した。育てろと言いたいようだった。
それから、ランディさんを含む私の全く知らない五人ほどのメンバーで、一台の車に乗り込み、時空を越えた旅をした。
例えばノルマンディー上陸作戦の連合軍の軍服を着た兵士たちと話したり、冷凍睡眠した人たちの眠る機械だらけの部屋に入ったりした。
旅は怒涛の勢いで、次から次へと色んな土地を巡ってゆく。
「ちゃんとなんてしなくていい!」
夢の中のランディさんが、戸惑う私を車にせかしてくる。
「どんどんいくよ!」
車はかなりのスピードで進んでゆく。次はどこに行くのか分からない。私は乗り遅れないように必死だった。
猛スピードの旅のおかげで、行きたいところに全部行き、やりたいことを全部やった。
夢が終わって起きたあとも、目が覚めるレモンのような爽快な気分だった。その話は家族だけにして、他の誰にも言わなかった。
二週間後、友人からネットでメッセージが届いた。
「今日の夢の中に田口ランディさんが出てきて『あかりさんは純文学書けるから書いてみるように言って』と言伝されました」
そのメッセージを読み、私は息を呑んで、無患子の苗木とその旅の夢を思い出した。再び頭に一発、目覚めのパンチを食らったようなショックだった。全く痛くはなく、鮮烈だった。
純文学が自分に書けるかどうかも分からないけれど、まずは短編を書いてみようか。
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抗がん剤治療中で、ろくに外出が出来ないころに見た夢です。
旅への憧れが詰まっています。
がん治療中はストレスからか、眠っても夢を見なかったのですが、これだけははっきりくっきり覚えています。
ちゃんとなんてしなくていい、どんどん行こう!
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