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彼女は、ビルの玄関の石段を駆け上がった。
屋上に行けるということは、このビルの中をもちろん観察できるということ。
デートの途中に彼を置いていくことに罪悪感はあったが、心はうきうきと跳ね上がり、高揚感で体が熱く満たされていく。
重厚な造りのガラスの玄関ドアを開けると、小さなホールがあった。
ホールの奥は廊下、右側には階段。
手摺りは木製で、植物モチーフの装飾が施されている。
彼女は地下に降りてみたいという衝動を抑えつけ、上の階を目指す。
二階には、通路を挟んで扉がたくさん並んでいた。
このレトロビルに入居しているテナントのようだ。
週末のせいか、テナントの扉は固く閉ざされて静まり返り、扉のどこかが開く気配さえなかった。
三階も扉が並んでいたが、突き当りの部屋はガラス扉だった。ガラスを通して、襖が見える。
和室があるのだろうか。
彼女は伸び上がって、きちんと掃除がされた廊下を眺めた。
視線を戻すと、階段のそばの壁に本棚があることに気づく。
彼女は一瞬、飛び上がった。ぞわっと体の毛が逆立つ。
「さっき、これ、あったっけ……」
ここには壁しかなかったような気がしたのだが。見間違いかもしれない。
本棚には子供向きの本がたくさん並んでいた。昆虫や植物の図鑑、童話、少年少女何とか全集。どれも古いものだ。
本の上の隙間には、プラモデルの箱やプラスチックの玩具らしきものが詰まっていた。
ここを上がれば、屋上のはず。
彼女は、屋上への階段をゆっくり上った。
木製の手摺りは、そこで水平になって終わっていた。
最後の階段を上がり終えた彼女は、歓声を上げる。
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