手袋越しの熱

4/5
5人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ
「理子、ままね、理子に相談したいことがあるの」 湯船の中で私の腕の中にすっぽりとはまった理子が上を見上げて私を覗き見る。 いやねもう、絶対二重アゴじゃないの。 「ままね、理子が幼稚園に行ってるとね、理子にぎゅーってできないの。だけどね、ままは理子のこと大好きよ。ぎゅーってしなくてもとってもだいすき。 けどね、どうしてもぎゅーってしないと不安だったらね、幼稚園に行くことやめないといけないの。 そしたらお友達とも会えなくなっちゃうし、先生みたいにずっと構ってあげることもできないの。 理子、どっちがいいかな?」 目をまん丸にした理子が、次の瞬間三日月にした。 「りこ、ままとぎゅーできるならお友達いいよ!いい子できるよ!!」 「理子、前向いて10数えて出よっか!」 もう、涙を堪えることはできなかった。 いーち、にーいと、時計より少しゆっくりと歩を進める時の間、抑え込まれながらも溢れた何粒かの水滴。 火照った頬にすら感じるこの熱が、これが愛だったらと美沙子は希った。 その夜、理子が眠りについたあと、美沙子は夫仁志に相談した。 理子に触れないこと。 理子に幼稚園を辞めさせたいこと。 それによって理子を「未就園児」にさせてしまうこと。お友達とも離れてしまう。 それは、普通の子とは違う道であること。 仁志はうーんと唸って缶に残ったもうぬるいビールを飲み干すと、美沙子に向き合った。 「お前には苦労かけるなあ。 俺が仕事ばっかで子育てなーんもせんで。 俺には未就園児がどんなもんかよう分かってないけどな、みんな大変だから幼稚園通わせてるんやろう。 お前にとって幼稚園が大変なら、通わせんでいいと思うよ。 すまんなあ、金稼いでくるからなあ」 はっはっはー!と笑って仁志は寝床に向かっていった。 夫は私を絶対に責めない。 分かってはいたが、味方がいることが、顔をじわりと熱くした。 手袋のことは話さずただのプレゼントということにした。なんとなく、私の中にしまっておきたかった。 明日、理子を幼稚園に連れていったあと、園長先生に話してみよう。 どうなるか分からない。 だが、これが私たち親子の道だ。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!