ショートストーリー<アラサーの迷い>

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――どうしてこんなことしてるんだろう、私。  エビフライの下準備を手伝いながら、内心ため息をつく。ここは今お付き合いしている11歳年上の彼の自宅で、私は初めて彼の両親に紹介されていた。  初めての紹介、という割にお兄さん夫婦と娘さんも来ていて妙にかしこまっている。もちろんご挨拶という事で私もくだけた服装ではない、はず。  と、自分の着ているブラウンのノースリーブワンピースに羽織ったカーディガンを見て思う。コンサバティブかつ好感度の高いスタイルではないかと自負していた。  彼とは趣味の仲間として知り合った。11歳離れているとはいえ共通項があれば仲良くもなりやすい。飲みに行くうちに何となく私たちは距離を縮めていった。 「今度うちの両親に会ってくれる?」  自慢じゃないが、付き合う男たちほとんど(実家が遠距離の場合以外)に両親を紹介されてきたのでそういうことは別に苦にならない。なので、二つ返事で受けた。  その結果がこのエビフライだ。  私が遊びに行ったとたん嬉しそうな顔をした彼のお母様は、お義姉さんに「やり方を教えてあげて」とひとこと言い、私たちにエビフライ50本分の衣をつけるよう言った。 「まだ婚約者じゃなくて彼女、なのにねえ」  そうお義姉さんは苦笑いすると、私を同情したように見た。 「別に嫌いじゃないんでいいです」  気遣ってくれたのでそう返すと、二人で黙々とエビフライに衣をつけた。  彼の家はいわゆる「いいおうち」だったんだと思う。地元で司法書士をしているお父さんとそれを支えるお母様、二つ上のお兄さんは一部上場企業に勤めており千葉に住んでいる。お義姉さんと娘さんは里帰りについてきていたようだった。 「あいつ、なかなか彼女とか連れてこないから心配してたんだ。あなたならうまくやってけると思う」太鼓判を押されて 「ありがとうございます」と言う。  お兄さんもお義姉さんもいい人そうだった。  あれよあれよという間に、気が付けば結納の場にいた。成人式で着た着物を母に着付けてもらう。ホテルの最上階にある料亭で両家の顔合わせを行い食事をする。別に嫌なことなど無いのに気分が沈む。お手洗いに立って鏡を見た時に、なんだか売られていく町娘みたいな気分になった。  私は披露宴できれいなドレスを着るために、ハードなダイエットをした。協力的な母のおかげでダイエットは成功し、社会人になってからは新記録の過去最低体重を更新した。脂肪は筋肉になり、既製服が大きくなっていく。モデルが着用している洋服がそのまま着られるようになったが、夫となるはずの彼は何の変化も起こさなかった。  自分ばかりが頑張っている気になったわけではないが、何か引っかかる。私はふと思い立って彼に質問した。 「いつも私のことを若い若いって言うけど、私があなたより年上だったら私と結婚してた?」  何気ない質問だった。 「いや、それはない。子供産めないし」  私が何気なく聞くから、彼も何気なく答えたのだろう。そこには駆け引きも無くただ正直な答えがあった。 「ふうん」  この三文字をつぶやく間に、私の体温は急降下する。彼は何も気が付いていない様子で晩御飯の話題に移ると、楽しそうに車を走らせた。 「なんで僕たちはこうなったんだろう」  離婚届を出しにやってきた区役所の前で問われる。なんでなのかなんて、私にもわからないけど。誰かに聞かれたらきっと「育ちが違う」と答えるしかないんだろうなとぼんやり思っている。  彼とうまくいかなくなってから、私は別の男と恋に落ちた。彼は私がいくつでも受け入れると言った。こちらもかなり年上の男だ。  これがベストアンサーかはわからない。だけど私は離婚した彼と握手をし、後ろを振り向かずに歩き出す。 何も聞かずに別れてくれてありがとう。そんな事を考えながら私はどこまでも澄み切った空を見上げる。雲一つないいい天気だった。 <FIN>
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