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第二話 「過去」
〜7年前〜
季節は春から夏へと移り変わりを遂げ、長袖シャツでは少し汗ばむ気温になってきた。
そればかりか、週間天気予報は毎日のように傘マークが並び、憂鬱な気分を運んでくる梅雨を迎えていた。
「犯人、まだ捕まらないのかな?」
高校からの帰り道、傘で顔を隠すようにして、葵は怯える声をあげた。
閑静な住宅街にも関わらずその声は、雨音にかき消されてしまうほどか細く、今にも消えてしまいそうだった。
「大丈夫。いざとなったら絶対に僕が守るから」
僕は目の前にいる小柄な少女を励まそうと、無理に声を張って見せた。
「そうだね。二宮君がそう言ってくれて少し安心した」
葵は、怯えた仔犬のような表情をくしゃっと丸めて笑った。
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