第一章 一話 「殻」

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第一章 一話 「殻」

「二宮君、遂に完成したよ」  白衣を着た長身の中年男性は、短くまとめられた白髪を優しく撫であげて、その白髪よりも少しくすんだグレイ色の天井を見上げながら呟いた。  感情を表に出さないよう、それでも、ことの重大さがしっかりと伝わる声色は、名前を呼ばれた僕の胸にグサリと突き刺さった。 「本当ですか?風見教授。いやでも、完成までにはまだまだかかると仰っていたかと思いますが」 驚きを隠せず、話し相手の数倍大きい声を出してしまったことに気づくと、ハッと息を飲んだ。 そんな様子を見向きもせずに、話し相手の中年男性はさきほどからただ天井を見つめている。 「最初はそう思っていたよ。だが、二宮君、君のおかげで、君の『葵』に逢いたいというその気持ちが、こんなにも早い《完成》へと導いたんだ」 中年男性は、ようやく話し相手の方向を向くと、着ている白衣よりももっと白い歯を見せて笑ってみせた。
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