お姫さまの花がひらくとき

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 帝国の辺境に、大きな森の小さな領地を治める領主さまがいました。  その静かな領地は裕福とは言えませんでしたが、住まう者たちはみな穏やかに日々を過ごしていました。  領主さまはたいそう美しい方で、彼に引けを取らない美しい奥さまと、おふたりの美しいところを継いだそれはそれは美しいお姫さまがいました。  お姫さまもまた領民たちと同じように明るく優しく穏やかで、誰からも愛されて幸せに美しく育っていました。  けれども七歳になった年、お姫さまは病に臥せってしまわれました。  それは古い言い伝えにある呪殺女王が残した呪いとも言われる重く難しい病気で、領主さまは方々から魔術士や司祭、医者や錬金術士を呼んで手を尽くしましたが、その甲斐もなくお姫さまはじわじわと衰弱していきました。  病の床にあっても優しく穏やかなお姫さまは、その手を取って涙する領主さまに言いました。 「おとうさまとおかあさまがびょうきにならなくてほんとうによかった」  領主さまはその優しさに胸を打たれさらに涙を流しました。  娘のためになにかできることはないかと悩んだ領主さまは、守護する領地の森の奥に住まう大精霊さまに相談することにしました。 「ああ大精霊さま、なにか我が娘の命を救うよい方法はないものでしょうか」  大精霊さまは言いました。 「私の力を分け与え眷属とすればお前の娘を救えるやもしれぬ。しかしそうすればお前の娘はひとならざるものへと変じてしまうだろう。それでも娘を助けたいか?」  娘が幼くしてこの世を去るよりはと、領主さまは一も二もなく頷きます。大精霊さまは一粒の小さな種を領主さまに渡して言いました。 「その種を娘に飲ませなさい。種は娘の中で根付いて私と繋がり病に負けぬ身体を与えるだろう」  領主さまは大精霊さまに何度もお礼を言ってお屋敷へ帰り、その種をお姫さまに飲ませました。
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