お姫さまの花がひらくとき

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 それから数日もするとお姫さまに変化が現れました。なんと左胸の上あたりから木の芽が生えて来たのです。  木の芽はお姫さまの左肩、左腕、首筋へと木の根を張っていき、しかしそれに伴うようにお姫さまの顔色は良くなっていきました。  そうしてひと月も経ったころには、お姫さまの体調は庭をかけ回れるくらいすっかりよくなりました。  その代償であるかのようにお姫さまの美しい金髪と青い瞳は樹霊のような輝く鮮緑へと変わりました。また左腕は手の甲まで届くほどに、首筋は頬に迫るほどまで木の根が張って、すっかり覆われた左肩には小さなつぼみがついたのでした。  お姫さまに痛みや苦しみは無いようでしたが、心配になった領主さまは大精霊さまにお礼に行くとお姫さまの様子を伝えました。 「お前の娘はまだ完全に私の眷属になったわけではない。そのつぼみが花と開いたときにお前の娘は真に私の眷属となり、その力を十全に使いこなせるようになるだろう」  それからこうも言いました。 「つぼみはお前の娘の気持ち次第でその姿、その力を変える。優しく生きれば美しい花が咲き優しい力を得るだろう」  領主さまは、いつかつぼみが花開くまでこれまでどおり優しく穏やかに生きなさいとお姫さまに伝えました。  それを聞いたお姫さまは言われるままに今まで通り、今まで以上に領民に対しても家族に対しても優しく、穏やかに過ごしました。  命は助かったものの髪と瞳は樹霊と見紛う鮮緑に染まり、身体の一部は樹木のようになってしまったお姫さまを見た領民たちの中には、彼女の姿に怯えたり陰で悪態をつく者もありました。  しかし以前と変わらぬ、むしろ歳を経るごとに健やかに利発に育っていく彼女を見ているうちに、彼らもその姿を受け入れるようになっていったのです。  それから八年。お姫さまが十五の歳になるころには、もう誰も彼女の姿が変わったことなど気にも留めていませんでした。むしろ守護する森の大精霊さまの眷属となった彼女は領民たちにとって誇るべき姫だと思われるようにすらなっていたのです。  お姫さまは感じていました。つぼみが膨らむたびにそこに大きな力が集まっていることを。そして、そのつぼみが花と開く日が間近に迫っていることを。
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