お姫さまの花がひらくとき

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 と、いう話だったのさ。  なんだって?帝国のおとぎ話はそんなエグいのばっかりなのかって?  残念だがこいつはおとぎ話なんかじゃねえよ。俺がいつ「むかしむかし」なんて言った?こいつは今も今、旬も盛りの話だぜ。お姫さまもピンピンしてらあ。  帝国の西北の端、連邦との国境にある森の領地ティーファヴァルト。そこを代々治めてきた弱小ながらも由緒ある帝国貴族にして森の奥に住まう大精霊の眷属でもある半人半霊のお姫さまが、今年で十七になる当代領主ニルヴァリンデ・シャッセ・ティーファヴァルトなのさ。  彼女の華々しいデビューによって帝国と連邦のパワーバランスが変わりつつある。なんたってもう彼女の治める森の領地には誰も侵攻できやしねえんだからな。  まつろわぬ民も山賊どもも、あの辺りで事情を知ってるやつらは今じゃ一歩だって彼女の森に入ろうとしやしねえ。  帝国指折りの要注意人物のひとりってわけだ。  もっとも、今年から暫くはまた事情が変わるんだがね。  彼女の後見人になった職業騎士が、なんつったかな。とにかく戦争より管財のほうが得意って変わり者で、領主になるなら中央での経験は必須だとかでご貴族さま御用達の最上級魔術学院へ入学させることにしたんだと。  まあ不意打ちとはいえいきなり職業騎士率いる一部隊を瞬殺するようなお姫さまに魔術のお勉強なんぞ必要ない気もするけどな。むしろ政治とか人間関係を学ばせたいのかねえ。  さてさてそうなると、あの鮮緑と深紫の容姿の如く二面性を孕んだ彼女がどう育つのやらだな。  大精霊の加護を受けた才色兼備の令嬢領主として頭角を現すのか、圧倒的暴威に深慮遠謀を携えた恐るべき悪役令嬢に化けるのか。  お姫さまが咲かすもう一花。こいつはちょいと見物だとは思わねえか?
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