彼を作ってきた歴史

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彼を作ってきた歴史

 北海道の道路は広い。少し開いた窓から入り込む涼しい風に、髪の毛を揺らす。 「涼しいね」 「そーだね。どっかで少し休む?」 「大丈夫」 「そう」  運転中はあまり話をしたくないという彼のために、言葉を飲み込む。1人で過ごす街の話や、会えなかった期間に思ってたこと、道の端に生えてる木々の話も、すれ違う車のナンバーが何種類もあることも。話したいことはたくさんあるのに。  ぼやぁっと通り過ぎていく風景を眺める。急に止められた車。パッと顔を上げて周りを見渡せば、大きな湖。 「冬だったら、いっぱい居るんだけどさ」  細かい説明もせずに車を降りていく、彼の背中を追いかける。涼しい風が吹く木々の真ん中にぽっかりと開いた湖は、美しくて厳かだった。  湖の上には、ぽつり、ぽつりと2羽の白鳥だけがそこにいた。 「本当はいっぱいいる時に見せてあげたほうが良かったのかもしれないけど」 「うん」  言葉少なに頷いて、バサバサと羽を広げる白鳥に視線を合わせる。 「昔はさ、パンの耳とかあげられたんだ」 「へぇ」 「怖くて泣いちゃったんだよね、俺」  意外なたっちゃんの過去に、ぴくりと眉毛が動く。ポカーンと口を開けてそちらを見れば、顎を掴まれる。 「何その顔」 「意外、怖いものなんてないみたいな顔してんのに」 「小さい頃の話だから」  ツーンと唇を尖らせた彼の頬を突く。意外な彼を知れた気がする。久しぶりのことかも知れない。 「ごはんいっていい?」 「うん」  そっと柔らかく握られた右手は、少しだけ熱を持っていた。 ▽ 「カレーラーメン、ここだから。おすすめはチャーシューメン」  三台しか停められないような駐車場に、昔ながらの暖簾。美味しいとは、彼は言うけどどうなんだろう。  お店の中は、昔ながらのメニューが壁にずらりと貼られている。昔ながらのラーメン屋、って感じだ。 「一緒でいい?」 「うん」 「チャーシューメンとライス二つずつ」  それだけ、言ってからぽちぽちとスマホをいじり始める。私は周りをしげしげと眺めてから、やっぱりスマホを触り始めた。  SNSを見ても、大した話題もない。可愛い猫の動画が流れてきてスマホを見せつける。 「見て、かわいいー」 「ん」  ちらりと一目だけこちらにくれてから、またスマホに目を戻す。そういうとこ、すごくムカつく。
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