一寸先に希望の光は

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 非情にも突きつける口調と人間を眼下に見る切れ長の目を前にして何も答えられなかった。  この少年のように幼い子供もたくさん撃ち殺してきたし、赤子を抱いた母親だって例外ではなかった。歯磨きをした回数をいちいち覚えていないのと同じで、事務的に標的を仕留めただけだ。そんなことに心を痛めていたら気が狂ってしまう。  目の前に平然と立っている少年の顔を見ると、今まで殺めてきた子供達と重なりそうで、視線を転がっている木材へと落とした。  喉がきゅっと絞まるのを感じながら、なんとか声を奥から揉み出す。 「……生きるためだ」  暫くの間、また廃屋が沈黙する。少年の大きな溜息が耳の中で重く響いた。どこか落胆したような空気の漏れ方である。 「生きるため、ね。ならぼくもこうする――」  言い終わる前に少年がいきなり飛びかかってきた。とっさのことで、しかも目を伏せていた僕は、抗う術もなく床に押し倒されてしまった。  少年の荒い息が顔を撫でる。そして首筋にひんやりとした冷たい感触があった。  それをナイフだと脳が認識した瞬間に、全身を熱い血潮が駆け巡った。戦闘用の切っ先が鋭いタイプで子供の弱い力でも楽に喉元をかっ切れそうである。  外側の戦争のことなどはどうでもよくなって、ただ「少年が僕を殺そうとしている」という事実だけが頭の中を支配した。どうやら僕の負けらしい。目を閉じたまま死をただ待つ。  ――あぁ、とうとう天罰がくだったか。ただ生きようとして敵に引き金を引いてきただけなのに。僕はどこから間違ってしまったんだろう。そもそも最初から戦争自体が正しくなかったのか。    昔からの仲だった旧友の顔をそっと思い浮かべた。永遠の親友と誓い合っていた彼はいまや敵国の人間になってしまった。もう友人としては会いにいけないだろう。  在りし日は一つの国だったのに、本当につまらないことで血を血で洗う長い争いになってしまったものだ。彼はまだ元気にしているだろうか……
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