一寸先に希望の光は

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 少年は黙ったまま僕を見つめている。僕も彼の信頼に応えるように、近くに落ちていた銃を前足で蹴り飛ばした。数え切れないほどの命を奪ってきた物質としては、なんともつまらない音を立てながら床の一角に向かって回転した。これでやっと対等な関係になれた。 「君の名前を教えてくれないか」  息を整えた後に尋ねると少年は大きく頷いた。張り詰めていた顔がわずかに緩み始めて、その隙間から小さく声を出した。 「ぼくの名前は――」 「ちょっと待て、なにか足音がする。入口のドア近くまで来ているようだ」  僕は口元に人差し指を当てて少年の言葉を遮った。外の物音に全神経を研ぎ澄ませた。  物音を立てないようにゆっくりと動いて錆びたドアを閉める。少し耳障りな音がした後、僕らはまた暗がりに包まれた。  これは一人だけか、いや複数だ。なにやら聞いたことのある音だな……あぁまさか!  なんてこった。僕は悔しくて唇を噛み締めた。神は僕達を見捨てたのか。 「僕の軍隊がもうじきここに攻めてくる。ちょうど君のいる村の人達を全員虐殺しているところだ。特に子供は奴隷にされて他国へ売られるらしい。本来協定には民間人への危害は許可されていないが、ここは無法地帯だ」  せっかく分かりあえたのに。少年へのやるせなさに肩を大きく落とした。もう僕はどうしていいか全く分からない。次の行動をとるまで一刻の猶予もなかった。  コツン、と軍靴の先に軽い衝撃を感じて視線を移すと少年が投げたはずのナイフがあった。驚いて顔を上げると彼は暗い目をしたまま僕を見据えていた。全てを呑み込むような目。 「これでぼくを殺してくれ」    少年は確かにこう言った。 「ねぇ早くしてくれ。奴らに奴隷にされるより、お前にさっさと殺されたほうがマシだ。ナイフは訓練で使えるんだろう? ぼくには怖くて無理だ」  あまりのことに返事ができないでいると、暗闇に浮かぶ少年の目がじわじわと近づいてきた。   若さに満ち溢れてみずみずしい薄緑。それでいてどこか大人びた退廃的な目。
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