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小さな少年がいた。
攻め込んだ村にあった廃屋の闇に、小さな少年がいた。
銃弾が飽きるほどひっきりなしに飛び交う戦場の中、魂を抜かれたように立ちつくしていた。その後ろ姿は周りを囲む断末魔の叫び声の中では、ひどく不均衡であった。
少年がいる今にも崩れ落ちてきそうなこの木造りの廃屋だけが、足音一つなく静寂に包まれていた。
敷居をまたいで僕の鼻先には湿りきった静けさと鼻をつく火薬の匂いがある。いつ殺されてもおかしくない状況の中、やはり少年は呆然としていて、それに誘い込まれるように軍靴を彼に向かって真っ直ぐ進める。
窓が一つもない暗がりのせいで彼の手先がよく見えない。ゲリラ兵なのか、ただの子供なのか。どちらにしろ始末しなくてはならない。命の取り合いに情けは無用だ。
ぱきっ。僕の靴が鋭い足音を立てるのと同時に少年がゆっくりと振り返った。ちょうど彼の顔に半開きの入口からの日差しが当たってよく見えた。
少年は笑っていた。
これから起こることの全て理解したかのように、冷笑を頬の隅に浮かべている。迷彩柄の軍服を着ている僕に対して何も驚かないようだ。
それどころか来る者を迎え入れる雰囲気まで醸し出した面持ちである。まだ幼気な丸い顔に貼り付けた笑顔が、年を錯覚させるほどの強い圧迫感を作り出していた。
煤で真っ黒になってぼろぼろに擦り切れたカッターシャツ。それと対比できるぐらい透き通った純白の髪。片足は長いがもう片方が膝下まで破れた長ズボン。
大勢の軍服姿に見慣れていた僕にとってはあまりにも奇妙すぎる光景であった。
得体のしれない恐怖を感じた僕はいきなり彼に銃口を向けた。少年は意味ありげな笑みを消さないまま、僕の目を見て口を開いた。
「なぁお前は何人殺してきた」
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