ありがとう

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 それも、面と向かってだけじゃないんですよ? ふと気がつくと、自分の部屋のドアを少しだけ開いて、その細い隙間からこっちをジーっと睨んでるなんてこともあったりするんですよ。  妙な気配を背後に感じて、ふと振り返ってそれを見た瞬間、思わず「うわっ…!」と悲鳴をあげてしまったことも一度や二度じゃなく、こう言っちゃなんだが、まあ、とにかく気色が悪い。  とはいえ、さすがにとなりに住むなとは言えないし、今さら引越しするわけにもいかないですよね。  ま、人生楽あれば苦あり。人間万事塞翁が馬。反対のおとなりさんはラッキーなことにも美人のいい人だったし、それじゃあ恵まれすぎてるからな。これでバランスがとれて、俺の運もトントンだ…と、A君は前向きに考えることにすると、そのマンションでの一人暮らしを楽しむことにしました。  ところがですよ。そのマンションに越して来てからしばらくすると、なんだか変なことが起こるようになったんです。  まあ、こういう話では月並みなんですがね、夜、ベッドで寝ていると突然、金縛りにあったんですね。  うっ…か、体が動かない……な、なんだこれ……!?  なんとか体を動かそうとするんですが、どんなに力もうと鎖でぐるぐるに縛りつけられたいあのようにまったく動くことができない。でも、これが意識だけは不思議なおとに、妙にはっきりとしてるんだ。  冷や汗をびっしょりかきながら、しばらくベッドの上でジタバタしていると、A君はふと、目だけは動かすことのできるのに気がつきました。  それで、体は依然、固まったまま、A君は目の玉だけを忙しなく動かして暗い部屋の中を見回したんですが……目を頭の上の方に向けた瞬間、そこに見えたんです。  頭の上ですから、見える視界の範囲は限られているんですがね。その狭い、わずかな視界の中に見えるんですよ。  ぼんやりと、闇に浮かぶようにして枕元ににょきっと立つ、肌色のストッキングを履いた女性の二本脚が……。  あれ? なんでこんな脚がここにあるんだろう?  最初は怖いというより、なんだか不思議に思ってそれを見つめていたA君でしたが、もちろん彼は一人暮らしでしたし、しかもこんな真夜中に、そんな女性の脚がそこにあるわけがない。  そこに思い至った瞬間、ぞわぞわっと全身に鳥肌が立って、言い知れぬ恐怖に襲われたそうです。
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