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「勘違い? いや、そんなはずは…」
とそこまで言いかけたA君でしたが、不意に嫌な考えに捉われました。
も、もしかして、あの薄気味悪い501号の女、あれがこの世のものじゃないんだとしたら……。
そこに思い至ると、A君は背中にゾクゾクと冷たいものを感じ、自然と体が強張るのを感じました。
「ちょ、ちょっと待ってください! そ、それじゃあ、となりの501号には今、誰も住んでいないって言うんですか!?」
でも、ここへ越して来てからというもの、確かにあの女を何度となくこの目で見てるんだ。体が透けているわけでもないですし、あれが幽霊だなんて言われても、俄かには信じられませんよね?
やっぱり何かの間違いかもしれない……そう、半信半疑に訊き返したA君でしたが、じつはですね、ここにもう一つ、彼には大きな勘違いがあったんです。
「501? ……ああ、いえいえ。左どなりではなく、自殺があったのは右どなりの503号の方ですよ。もう一度確かめてみてください。今は誰も住んでないはずですよ?」
不動産屋は、彼の質問にそう答えるんです。
そう……事故物件で誰も住んでいないのは、あの美人さんのいる部屋の方だっていうんですね。
ええ!? そんなバカな! あの子とは毎日のように挨拶交わしてるし、どう見たって幽霊には見えないぞ!?
501号の気味悪い女だって幽霊とは思えませんでしたが、あの可愛らしい笑顔をした美人さんが生きている人間じゃないなんて、とてもじゃないが信じられない。
もう、何がなんだかわけのわからなくなったA君は、どう答えて電話を切ったのかも憶えていませんが、慌てて右どなりの503号室の前に行って確かめてみたそうです。
ほんとはこんなことしちゃいけないんですけどね、ドアの郵便受けから中を覗ってみると、ほとんど何も見えないんですが、臭いというか、空気の感じっていうんですかね? どうにも人が住んでいるような気配がほんとにしない。
続けて今度はベランダに出て、覗き込める範囲で503号の方を見てみたんですが、やっぱり人気ってものが感じられないんですね。
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