儚い期待

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僕は君に一つ嘘をついた。 あの日、僕は君に会うためにあそこにいた。 君が20歳になったあの日。 あそこのベンチに座って君が通るのを待っていた。 そして君が来た。 僕は少しだけパワーを使って、突風を吹かせた。 君の前に僕が被っていた帽子が飛ぶ様に。 案の定君はその帽子を拾って僕に手渡した。 その時君はまだ気が付かなかった。 だから次の日も同じ場所で君を待った。 毎日同じ時間に同じ場所を通る君。 きっと学校の帰りだろう。 君は僕に気がついて、会釈をしてくれた。 僕は笑いかけてみたけれど、それでも君はまだ気が付かない。 僕はまたもう少しだけパワーを使った。 今度は君の夢に出てみる。 夢の中で話しかけてみた。 君は夢の中で僕に優しく話してくれる。 嬉しかった。 僕は君に一目惚れをした。 今までこんな事はなかったのに・・・ 次の日も同じ場所で君を待つ。 この日君は、僕に笑いかけてくれた。 そしてまた次の日も僕は待った。 こんな事が1週間。 いよいよその時が来てしまった。 僕が君を連れて行く日。 君は体から離れて、魂だけの形になった。 ようやく僕の正体がわかったみたいだった。 「あなたは私の死神なの?」 僕は一つだけ嘘をついた。 「違うよ。僕は君の来世の恋人だよ」 本当はそんな事は決まってない。 でもそうありたいと思ってしまったんだ。 だってあまりにも君の魂が綺麗だったから。 僕は死神ではない。 それは事実だ。 ただの迎えのモノ。 そして僕の嘘は、ただのエゴだ。 そんな僕を見て、ボスの死神が笑って言った。 「まあいいさ、お前もいつか人に生まれ変わる時が来るかもしれないからな。それが彼女の来世とは限らんが、いつかはそうなれるかもしれんな。未来は誰にもわからんさ」 僕の嘘はいつか本当になるのだろうか。 今日も天界の彼女の魂に会いに行く。 僕の心は儚い期待で一杯だ。 僕の未来の恋人・・・
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