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『予は必要に応じて様々な嘘をついて来ましたけれどね。この世で最も難しい嘘とは何だと思いますか?』
後継者である嫡男と二人きりで御茶を飲みながら、柔和な笑みを浮かべつつ問いますと。
『御自身を騙し続ける嘘ではないでしょうか』
長い時間を掛けて後継者として育て上げた嫡男の返答に、父親である予は笑みを浮かべて。
『その通りですね。他者を騙すのは自分自身を騙し続けるのと比べれば遙かに容易ですからね。理由は解りますか?』
幼少の頃から様々な場面で予に試され続けて来た嫡男は、父親である予に対して恭しく深々と御辞儀を行い。
『御自身を騙し続ける為の嘘は、一瞬でも自らの発言に疑問を抱けば全てが崩れ去る恐れが常にあります』
父親である予の分身として育て上げた後継者の返答に、予は心底より満ち足りた思いを抱きながら頷いて。
『いつの時代のどの国でも、最悪の嘘吐きは常に自分自身です。その事実を忘れないように心掛けておきなさい』
予が作り上げた最高の芸術作品は、創造主に対して完璧な所作で再び恭しく深々と御辞儀を行い。
『はい。御言葉肝に銘じます』
これで予が天寿を全うしても何一つ問題はありませんね。予が作り上げた最高の芸術作品でもある分身が、後継者として後を受け継ぐのですから。
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