コロナ渦中の闘病日記 -Ⅲ,最悪な年明け-

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コロナ渦中の闘病日記 -Ⅲ,最悪な年明け-

2021年1月1日の晩から身体に異変が生じた。元日から始まった体調不良は今でも鮮明に覚えている。菌が本格的に私の体内で活動をはじめたであろう症状が出て、それ以降悪化の一途を辿ることになる初日だった。 私用で他県にいた私は、元日の夜に全身の倦怠感と全身の不快感に襲われていた。 ただの疲れだと思い込み、23時には床についた。しかし、翌2日の早朝5時には目が覚めた。 強烈な吐き気と便意を催し、慌ててトイレに駆け込んだ。便座に顔を突っ込み、昨晩食べた物を吐いた。吐瀉物の不快な匂いが胃を刺激して、更に3回ほど吐いた。急いで口をすすぎ、トイレットペーパーで口周りに残った吐瀉物を拭いた。 我慢できなくなった便意に応えるべく、便座に飛び散った吐瀉物もトイレットペーパーで拭き、腰をかけた。息つく暇もなく体内から排出されたのは弛い便。数回排出を繰り返すたびに下痢になった。 「誰か助けて」 頭の中では助けを呼んでいるが、実際に助けを請う体力がない。用を終えると力尽きたようにそのままベットに倒れこんだ。 動けない。 指一本動かせない。 しかし、意識は吐き気と便意のお陰ではっきりしている。 不思議なことに私はやけに冷静だった。 27歳でうつ病を患って以来、定期的に過呼吸、嘔吐、下痢、胃痛、倦怠感、上げるときりがないが、軽度ではあるが様々な症状に襲われていたので、さほど驚かなかった。 様々な症状に対する「慣れ」とは、ある意味自己防衛なのかもしれない。 症状が落ち着いてから、午前中のうちに他県を離れ、新幹線に乗った。 外出自粛の影響で帰省客がかなり少ない。 閑散とした車内に乗り込み、座席を探した。上りの新幹線の車内は1/3も乗客がいない。年始の新幹線がこんなに空いているとは思っていなかった。帰省客を乗せた上りの新幹線でゆったり椅子に座れるとは、実に奇妙な気分だ。 3列シートの窓際に座り、外を眺めた。 吐き気も便意も治まったし、このまま窓をのんびり眺めながら帰路につこう。 などと考えているうちに、新幹線が発車して約10分後に再度吐き気に襲われた。 まずい、座席で吐くわけにはいかない。 慌てて新幹線のトイレに駆け込み、内側から鍵をかけた。新幹線の揺れが容赦なく胃を刺激した。胃に促されるまま吐く、と思ったが、少量の酸っぱい胃液と唾液しか出てこない。 胃の中が空っぽで、出すものがないのである。 ため息をつく暇もなく、倦怠感も襲ってきた。足に徐々に力が入らなくなり、トイレのドアにもたれ掛かった。 焦るな、焦るな、大丈夫だから。 自分で自分を宥め、落ち着いてからトイレの鍵をあけた。近くの洗面台で手を入念に洗い、口をすすいで席に戻った。 何駅か通過したにも関わらず、新幹線は依然として閑散としていた。 他の乗客が隣席にこないこと確認して、そのまま目的の駅につくまで横になっていた。 熱があがってきたのか、頭がぼやっとする。 感染性心内膜炎の症状が本格的に出てきたのである。その時の私は、自分がそんな大病にかかっているとも微塵に思わず、ひたすら身体を休めていた。 ふふっ。 声を出して笑った自分に驚いた。 途中で下車して救急車を呼ぶことさえ考えているのに、笑いが出るとは。 そういえば、新幹線で吐くのは初めてだ。 人生、経験していないことは沢山あるんだな、と横になったまま目的の駅への到着を待った。
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