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 二階へ上ると、青い目隠しシートが最奥まで続いている。  すれ違う関係者に会釈をしながら、緊張感が漂う奥へと突き進む。深呼吸を数回する間に辿り着いたのは、玄関扉が開いたままの201号室。  この部屋で一人暮らしをしている住人の名は、先ほど車内で野副さんから聞いた。(あさ)()()()。この春、私立大学文学部の四年生に進級する筈だった学生。しかも、昨日二十一歳の誕生日を迎えたばかりだと。 「先生、靴にコレを付けて下さい。あと手袋も。急ぎだったのでお持ちじゃ無いですよね?」  玄関に足を踏み入れようとした際、野副さんに差し出されたのは靴に履かせる白いカバーと、青色のディスポグローブ。  もしかして!これらの検案グッズは、本来ならばセンターから持参しなきゃいけないのか!? 「すみません!そこまで気が回らなくて!」  そうならそうと、俺に来いと言った時点で教えてくれれば良いのに!  ここからでは姿が見えないが、さっさと一人で室内に入った上司に向かって、心中で文句を垂れる。 「いえ、こちらでも準備をしていますから大丈夫です。ただ、手袋の場合、先生の中には素材が肌に合わないと仰る方もみえるので」 「あ。僕はアレルギー有りませんから大丈夫です。甘い食べ物が苦手なだけで。でも今後は持参します」  一礼して受け取った俺は、早速それらを装着して彼の後を追いかける。  室内で作業をしているのは、上下青色の活動服を着た関係者達。腕には「鑑識係」の腕章を着け、キッチン周りや床に視線を這わせている。  これはマジだ……この光景、刑事ドラマで何度か見たことが有る。あの人が持ってる耳かきみたいなフワフワした棒、確か指紋を調べる道具だったよな?  病死でもここまで本格的な鑑識をするとは意外だ。捜査員の動きを見て、突然と緊張感が増してくる。  泳がせていた視線を正面に戻した、その瞬間。不意を突いて目に飛び込んで来たのは、床にうつ伏せる女性の姿。フローリングの上に倒れているそれは顔だけをこちらに向け、見開いたまま微動だにしない目と視線が重なる。 「うわ――っ!」  驚愕の声が喉から突き上がる。無意識に後退りをした俺は、背後にある何かに衝突してよろめいた。
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