02

15/23
1285人が本棚に入れています
本棚に追加
/238ページ
 驚いて部屋を覗く。遺体の側で立ち話をしているのは、今しがた俺を鼻で笑った男性と、他の捜査員と同じ活動服を着た女性。左腕に「検視官」の腕章を着けている。  あの人が何度も話に出て来た、佐倉検視官?莉緒と衝突をしていると聞いたから、勝手に男の姿を想像していた。  深く被った帽子で顔がハッキリとは見えないが、年齢は四十代半ばくらいだろうか。縁なしの眼鏡を掛け、いかにも敏腕そうな空気を持つ人。先ず、女性検視官のキャリア自体が格好良い。 「おい、魔女子。死亡推定時刻は?遺体に目立った外傷は無いんだろ?死因は気管支喘息発作による窒息死で良いのか?」 「今それを診ている。外野は黙っていろ。気が散る」  右手だけを前方へ伸ばした体勢で静止している女性。莉緒はその足元にしゃがみ込み、下肢に触れながら検案を始めている。 「チッ。相変わらずいけ好かねぇ女だな。その道では素人だと見下してやがる」  刑事は大きな舌打ちをして、腕を組みながら不機嫌を露にする。 ……そうだ。いつまでも部屋の入り口に突っ立って、傍観者の如く足を震わせている場合ではない。俺は検案に来たんだ。死者を診るために白衣を着ているんだ。  上司の背中を見つめ、必死に自分の尻を叩く。  意を決して再びフローリングへ視線を戻すと、暗赤紫に変色した女性の顔が俺を見ている。……そう見える。顔面のチアノーゼだけでも一目瞭然。死因は窒息死だ。  ああぁ……血の色に染色されたあの眼が怖い。今までに何十人と言う遺体と向き合ったが。倒れている環境によって、こんなにも見え方が違うものなのか。 「そこの研修医。何をしている?胸腹部の死斑(しはん)を診る。御遺体を(ぎょう)()()にするから、おまえは体を支えろ」  床に膝を突く彼女は声を飛ばし、顎で俺に指示を出した。
/238ページ

最初のコメントを投稿しよう!