02

16/23
1292人が本棚に入れています
本棚に追加
/238ページ
 遺体が身に着けているのは、長袖のTシャツにハーフパンツ。佐倉検視官の手を借りて体を持ち上げると、その感触で完全に死後硬直を迎えているのが判った。  外気温でその進行に差は出るが、通常、死後硬直が始まるのは死亡して約二時間後。そして八時間が経過する頃には、筋肉も関節もマネキン人形の様に硬くなる。  死後硬直と同じ経過で現れるのが、皮膚に浮き出る死斑(しはん)。死亡によって循環しなくなった血液が「重力の働く方向」へと集まり、皮膚を透かして見えるのがそれだ。つまり、仰向けなら背中側に。うつ伏せなら、胸側に鮮紅色や暗赤色の(まだら)模様で現れる。 「(ふく)()()と死斑の出現部位は一致するわよね?頸部の(さく)(じょう)(こん)の有無についてはどう?」  佐倉検視官が絞殺(こうさつ)の可能性について問う。俺が見る限りでは、首に紐や手で絞められたような痕は無いように思う。刑事も先ほど「外傷は無い」と言っていたし。 「見たところ無い。皮膚に防御創も見られない」  遺体の頸部から顔面へと、まるで顕微鏡を覗き込むように刮目を続ける彼女。 死斑の移動性を確認しているのか、指で皮膚を押してはその色の変化に目を凝らしている。 ……ん?防御創?犯人と取っ組み合いになった時など、体に残る防御痕の事じゃ無くて? 「あの、絞殺時の防御創って何ですか?」 「おまえ、そんな事も知らないのか?」  一瞬だけこちらに視線を向けた彼女は、眉間を寄せて呆れたように言う。 「……すみません。勉強不足で」
/238ページ

最初のコメントを投稿しよう!