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絞殺(こうさつ)(紐などで首を絞めて殺す)や扼殺(やくさつ)(手や腕で首を絞めて殺す)の場合、被害者は息苦しさから逃れようとして、首を絞める異物の間に指を入れてもがく。その拍子に、自分や相手の皮膚に引っ掻き傷を残す。それが防御創だ。その傷が無いと言っているんだ」 「爪の間に皮膚片らしき物も見つかっていないわよ。爪に変形も見られないし。取り敢えず、揉み合った形跡は無いわね。息苦しさでベッドから滑り落ちたのかも知れないと、あの布団で予測はつくけど」  莉緒の言葉を追って、佐倉検視官が隣の部屋に指先を向ける。指しているのは、隣の部屋に置かれたベッド。掛け布団が完全に床に落ち、シーツの端がこちら側へ向いている。  ベッドから倒れている位置まで7m程。死後硬直の状態からして、発作が起きたのは真夜中か?突然に起きた発作で目を覚まし、もがきながら途中まで布団を引き連れ、ここまで這って来たのだろうか。 「……佐倉検視官。どうして彼女はこの部屋で息絶えたのでしょう。もしかして、吸入薬が置かれていたのはこのテーブルだからでしょうか?」  亡くなった彼女が手を伸ばしていた先にあるのは、小さなテーブル。遺体発見時に何かの遺留品が存在していたのか、今は番号が書かれた札だけが三つ置いてある。  俺の横に居る莉緒は、仰向けにした遺体の眼瞼を覗き込み、より一層難しい顔をして首を捻っている。  口を真一文字に結んで何を考え込んでいるのか。遺体に防御創は無いと自分で言ったじゃないか。それに、手足を縛られた拘束痕も見当たらない。 「どうぞ私の首を絞めて下さい」と、無抵抗で首を差し出したとしても、肝心の絞め痕が無ければ他殺は成り立たない。この状況で窒息死と断定が出来るのだから、残るは病死しか無いだろうに。  問題は、重責発作を引き起こす可能性があったのか否かだ。 「そう。吸入薬は彼女が握っていたけど、薬の袋はテーブルに置いてあった。恐らく、ここまで薬を取りに来たんじゃないかしら」 「その吸入薬を見せて貰えませんか?もし有れば、薬手帳も一緒に」 「勿論、良いわよ。薬手帳は彼女のバッグに入っていたから」  俺を見て大きく頷いた検視官。捜査員の一人に合図を送ると、その人が手にした二つのビニール袋を俺に渡した。
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