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「なるほど。使用していたのは、気管支拡張と抗炎症の両作用がある配合剤ですね」  ビニール袋からロケット型の吸入薬を取り出し、手に握っていたと言う薬剤の名を確認する。更に薬手帳で処方日時を見ると、彼女が夜間救急を受診したのは一昨日の22時頃だと分かる。  それ以前の処方履歴も遡ってみる。どのページを見ても、喘息の症状で受診していたのは休日や夜間救急ばかりだ。日頃から発作予防の薬を服用していた記録は無く、呼吸苦や咳が出てから処方を受けていたことが窺える。 「それ、処方されてから使った様子はあるわよね?今回は吸う前に呼吸停止が起きたのだとしても、数回でも使用したら多少なりとも効果が残るものでは無いの?」  検視官は俺の手の中にある薬剤を指さし、素朴な疑問を口にして首を傾げる。  吸入薬のキャップを外してダイヤル数を確認すると、メモリは60の下にある黒丸の部分で止まっている。 「この薬剤は20刻みで数字が移動するので、はっきりとした使用回数は分解して残量を測らないと分からないと思います。あくまでも予測ですが、最初の空打ちを入れて三、四回は使用しているのではないかと」 「それなら一日二回の使用回数は守っていたって事よね」 「ただ、この種類はパウダー状の薬剤なので、症状が強いと上手く吸入ができない人も居ます。あと、長時間作用型ではありますが、効果が安定するまでに二、三日掛かる人も」  俺も同じ物を何度か処方した事がある。十年程前に販売開始された薬剤だが、気管支拡張剤とステロイドが合剤された優れモノ。咳喘息の患者に処方をする医師も多いが……重症喘息の患者に処方する薬ではない。 「彼女、救外でステロイドの点滴はしていませんか?その時点で発作を起こしていたら、帰宅させるにしても点滴で症状を軽減させる筈ですが」  発作を目の前にして、吸入薬だけポンと処方して帰宅させるのは危険な治療。程度によっては即入院だ。  それが判断出来ない医師だったのか、それともたかが喘息と甘く見すぎたのか……。 「診察をした医師に連絡をしたんだけど、今は検査中で手が離せないみたい。野副巡査部長が直接話を聞くために病院に向かってる」 「えっ?野副さんが?でも……」  あれ!?いつの間にか野副さんの姿が無い!さっきまでそこに居たのに!
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