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「それにしても、薬に詳しいのね。法医学教室から来た研修医で、君みたいな子は珍しいんじゃない?」  検視官はまじまじと俺を見た後、感心の意を込めて微笑みを向けてくれる。 「え~と、そのぉ……僕は法医学教室から来た者では無いので」 「え?そうなの?」  これは、昨日まで臨床医だったと言い辛い雰囲気だ。おまけに「研修医では有りません!」と、胸を張って言えない現状が更に辛い。 「そいつは臨床外科の脱落者だ」  虚を衝いて横槍を入れて来たのは俺の上司。 「脱落者って……先生、その言い方はあまりにも酷いです」 「何か違うのか?」 「……違わないですけど」  何もこんな場所で言わなくても良いだろうが!……ほら、やっぱり。検視官も刑事も捜査員までもが手を止めて、俺に好奇な眼差しを向けているじゃないか。 「まぁ、この変人法医のパートナーに任命されたんだから。一癖(ひとくせ)二癖(ふたくせ)あっても仕方ないわよね」 「……」  佐倉検視官、今のは俺を慰めてくれたのでしょうか?だとしたら、更に虚しさが増すんですけど。 「意気揚々と未熟な知識をひけらかすのは良いが。重症発作は突然起こるものだ。いつもは軽症で治まっていた者が、突然何かの環境性、精神性刺激で重症に陥るケースも多い」 「それは分かっていますけど、僕は発作が起きた状況を把握す――」 「喘息発作が死因だと決まった訳では無い。そもそも、本当に発作が起きたのかどうかも分からない」  莉緒が俺の言葉を払い除けるように言う。それまで遺体に向けていた視線をこちらへと移したかと思うと、俺を見るその目を細くする。
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