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嘘つきその①
むかしむかし、
いえ、ほんの昔…
あ、正確には1年ほど前から、
ある小さな村…いえ、村というのは嘘で
小さな町…実は小さな市にエリカという少女が
住んでいました。みんなからはエリーと
呼ばれているこの少女が、
1年前にこの町…いえ、この市に来たのは
大学に通うために田舎から出てきて、
一人暮らしを始めたからでした。
…というのは本人の談で、実際は大学生ではなく、
短大生…という名目の専門学校生でした。
エリカはなぜか小さい時から小さい嘘をつくのが
得意…いえ、クセでした。
エリカの嘘の特長は、すぐにバレる嘘です。
話しているうちに、大学生でも短大生でもない、
専門学校生であることはバレてしまうし、
自分でも嘘をついたとすぐに話してしまうし、
その嘘はわりと他愛ないことが多いので、
嘘をつかれた相手は
それほど怒ることはないのですが、
半分呆れられ、いつしか「嘘つきエリー」という、
ありがたくないあだ名をつけられてしまいました。
なのに、エリーは嘘をつくことをやめないので、
周りの人にとっては、いつしかエリーの嘘は
日常の一部となっていきました。
そんなある日のこと…
エリーが学校から家であるアパートに
帰ろうと歩いていたところ、
道に迷っている若い男性に出会いました。
「どこかお探しなんですか?」
とエリーが声をかけると、
「はい…ここへ行きたいんですが
ご存知でしょうか?」
それはエリーのよく知る場所でしたが、
エリーはその男性に違う道順を教えました。
しばらくすると、元の位置に戻ってきている男性と
再び出会いました。
「あのぅ…伺った道順で向かったのですが、
どうやってもここに戻ってきてしまうんですが…?」
エリーはにっこり笑うと悪びれもせずに言いました。
「はい。教えた道順は嘘でした」
「えっ…?」
「怒らないで下さいね。もしお時間が許されるのなら
そこでお茶に付き合っていただきたくて、
嘘をついてしまったんです」
そう言ってエリーが指差した先には
テラスが気持ち良さそうなカフェがありました。
男性は一瞬キョトンとなってから、
いきなり笑い出しました。
「あははは、なるほど!」
エリーの可愛らしい嘘に
男性は怒る気になれなかったようでした。
「では、お茶の後、教えていただけますか?」
「はい、もちろん!」
お茶をしたかったから違う道を教えた…というのは
実は嘘で、本当は男性が訪ねる家には、
それはそれは美しい娘が住んでおりまして、
その娘に男性を会わせたくなかったからでした。
エリーの一目惚れ、だったのでしょうか?
残念ながら、男性はその娘の婚約者だったのは
後からわかってしまうことになるのですが…。
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