嘘つきその③

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嘘つきその③

カフェを出たエリーはアパートまでの道を 鼻歌を歌いながら歩いていました。 すると、後ろから小さな両手がエリーの腰に ぎゅっとしがみついてきました。 「おかえり、エリー」 「あら、あかりちゃん」 それはアパートの隣の部屋に住む あかりちゃんという小3の女の子の両手でした。 「どこに行ってたの?」 「宇宙人とデートしてました」 「また嘘ついてる」 「どうして?嘘かどうかわからないじゃ ありませんか?」 「だって宇宙人なんていないし、エリーは…」 「ん?エリーは何ですか?」 あかりちゃんはさすがに言い淀んだようでした。 エリーにはその続きがわかっていましたが…。 「とにかく、ホントは何してたの?」 エリーは突然眉をひそめて、あかりちゃんの耳に 向かって小さな声でこういいました。 「地球の人ではない人に声をかけられて、 一緒にお茶を飲んだんです。証拠だって このバッグの中にありますよ…」 「えっ…しょ、証拠??」 「見てみますか?」 エリーのこわばった顔を見ているうちに あかりちゃんはドキドキしてしまい、 少し後ずさりしました。 「遠慮はいりませんよ。ただ、しっかり 立っておかないと、中に吸い込まれてしまうかも」 おずおずとバッグの中を覗き込むあかりちゃん。 「わっ!!!」 「きゃーっ!!!」 エリーのわっ、という声に驚いたあかりちゃんに あははは…とエリーは笑って 「やっぱり嘘でした〜」 「酷い!エリー!!」 「ごめんなさい、びっくりさせて」 お詫びに…とエリーはバッグからマフィンを 取り出してあかりちゃんに差し出しました。 「今日学校で作ったの。 バナナウォルナッツマフィンです。どうぞ」 ちなみにエリーは製菓の専門学校生です。 「美味しそう…いいの?エリー?」 「はい。もちろん」 「ありがとう!」 ようやく笑顔になったあかりちゃんと並んで エリーは歩きました。 あかりちゃんのママは遅くまでお仕事をしていて あかりちゃんは寂しくて、 いつもお腹を空かしていることを 知っていたエリーは、他愛のない嘘で あかりちゃんの寂しさとお腹を少しだけ 埋めていたのは嘘ではなく、本当の話です…。    
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