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ヘリコプターのローター音があたりに響きわたっている。ずいぶん低く飛んでいるなと騒音に苛つきながら、雪村は足を滑らせないように急な斜面を下っていった。
剥き出しの木の根に引っ掛かった男の体を認めると、雪村は転がり落ちそうになりながら駆け寄った。
「……さん、武藤さん」
頭を打っているかもしれないのに、つい体を揺さぶってしまう。出血はないから銃弾は避けられたのだろうが、勢い余って足を滑らせたのだろう。まったく、無茶をするひとだ。
武藤がうっすらと瞼を開くと、雪村は思わず抱きつきたくなったが、いちおう仕事中なのでぐっと我慢する。
「よう、お疲れ。大丈夫か?」
妙に余裕のある台詞で、雪村は安堵しつつも緩みそうになる口元を引き締めた。
「俺はなんともありません。武藤さんこそ怪我してないですか?」
「……左脚が折れたみたいだな。すげえ痛いし、動かせない」
雪村は顔を上げた。武藤の左脚は出血こそしていないようだが、膝の下がおかしな角度に曲がっている。雪村が手を貸したとしても、この斜面を移動することは不可能だ。とりあえず応急処置をと、近くにあった太い枝を添え木にして、ネクタイとハンカチで固定する。
「小林はどうした?」
「無事に逮捕されましたよ。武藤さんの打った弾が大腿部に命中して、立ってられなくなったところを確保されました」
「俺も拳銃を使った警官としてニュースになるのかあ」
相当痛みがあるはずなのに、武藤は冗談めかして言った。
「さすがに叩くマスコミはいないでしょう。相手は連続殺人の被疑者ですよ。むしろ表彰ものじゃないですか?」
「そりゃよかった」
安堵したのか武藤は目を閉じた。こめかみにうっすら汗がにじんでいる。雪村が手を触ると、きつく握り返された。
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