1章-1

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1章-1

 夫を見送った後、依田結花(よだゆいか)は徒歩数分の実家の母とお手伝いさんを呼んだ。 「結花ちゃん、今日はどこにいこうかしら? 松翁屋(しょうおうや)さんにいく?」 「えー、どこでもいいや。お母さんが決めたとこでいいよ」  結花は母の周子(ちかこ)の質問に投げやりで答える。  テレビに夢中だったのに話しかけられて、なんとなく腹が立つ。 「じゃ、松翁屋さんね。その前に掃除しないと」 「いーじゃん、お手伝いさんに押し付ければ」  結花は睨みつけるように、台所で洗い物をしている女性に目を向けた。  呉松(くれまつ)家のお手伝いの野田(のた)である。  歳は60代後半。元々小柄で少し腰が曲がり気味にもかかわらず、無理して高い戸棚からコーヒーを取り出す。  元気な結花と周子は全く手伝うそぶりを見せない。 「ねー、野田さーん、早くしてよ! さっきからずっとまってるんですけどぉ!」  結花は強い口調で野田を急かす。 「そうよ。結花ちゃんが首を長くして待ってるじゃない。早くしてよ」  周子がさらに追い討ちをかける。 「少々お待ち下さいませ」  せっつかれた野田は、不手際をしないように準備をして二人のもとへ渡す。 「お待たせしました。結花お嬢様、奥様」 「あんたトロ臭いんだけど」
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