終末のベルティーユ

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 *** 「ごめんね。本当はもっと、大きな鉢の方がいいのに」  少年、クロードはそう言って小さな鉢植えに語りかけた。鉢の中で蕾をつけているのは、小さな花びらが連なる形状の黄色の花。まさに今、世界中で“破滅の花”と称させれている花の一種だった。 「君の根っこは長いから、こんな小さな鉢だととても窮屈だよね。本当にごめん。でも、今すぐ用意できるのがこの鉢しかなかったんだ」 『いいのよ、気にしないで』  蕾の上に、ちょこんと座ったのは黄色のドレスを身に纏った小さな小人。この世界を守護する女神・ベルティーユの眷属とされる妖精の一人である。名前はメローネ。このように小さな一輪の花であっても、全ての花に一人ずつ妖精が宿るのがこの世界の理である。クロードはこの花とメローネを守るため、この村外れの洞窟に花を入れた鉢植えを隠しているのだった。 『確かに窮屈だけど、万が一の時すぐに逃げられるようにするためには、鉢植えの方がずっと都合がいいもの。……この戦争が終わったら、その時に私を広い庭にでも移し替えてちょうだい。そしたらお礼にたくさん仲間を呼んで、あなたのために綺麗な花畑を見せてあげるわ』 「ありがとう、楽しみにしてる。約束だよ?」 『ええ、約束しましょう』  約束。そうは言いながらも、クロードはこの戦争が簡単には終わらないであろうことを実感していた。こうやって毎晩のように自宅を抜け出し、村はずれの洞窟にメローネに逢いに来るこの行為も――いつ誰にバレてしまうかもわからない危険な行動であるということも。  それでもクロードがこの場所にひっそりと彼女を匿っている理由は二つ。クロードの村が、元々妖精達との共存共栄を謳う思想の根強い場所であるから。花と妖精を大事にする気持ちは、他の村の住人達よりもずっと強いのである。  そして、クロードにとっては、メローネは大切な友達でもあるのだ。彼女を守る、助ける、“花狩り”の連中から隠すのはごくごく当然なことであるのだった。 『……クロード』
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