終末のベルティーユ

3/7
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
 そんな村の住人の中には。恐らくクロード以外にも、同じように花と妖精を匿っているであろう家があることには薄々気づいている。それでも、もはや彼らさえも堂々と黄色の花を庇うことができないのが世界の状況なのだ。メローネ達の花は、破滅を呼ぶ花だと決めつけられて世界中から敵視されている。彼女たちどころか、彼女たちとよく似た黄色の花さえ間違えられて狩られていく始末だ。同時に、花を守ろうとしたり庇おうとした人間もまた、破滅の花に操られていると決めつけられて問答無用で処刑されるのである。特に国家権力さえ堂々とそのようなことを行うとあっては、誰も逆らうことなどできるはずがない。たとえいくらメローネ達が“世界を滅亡させようとしたことなど一度もないし考えたこともない”と主張しても、だ。  メローネを庇うとは、隠すとはそういうことである。だから、この秘密の逢引きの時、必ずメローネは言うのだろう。 『いざという時は、自分の命を優先させて。私を守ったりしないで逃げて。クロード、あなただってまだ十一歳の男の子なのよ。特に何か強い力があるわけでもない、わかるでしょう?』  わかりきっていることでも、繰り返さないわけにはいかない。メローネはこの状況であっても、人間である自分を心配してくれるのだ。クロードはそれが嬉しかった。 「ありがとう、メローネ。確かに、僕は子供だし、妖精と違って人間だから……魔法なんかも使えないし。軍隊が持っているような武器も何もないけど、でも」  いくら言っても、メローネが安心してくれることなどない。わかっていても、クロードは笑顔を作って告げるのである。 「でも。友達を売るようなら、僕はもう人間じゃない。僕は人間をやめたくないんだ。だから絶対、君を見捨てたりしないよ」  花狩りを多くの大国が主導し、恐怖と忠誠心で人々が暴走し、民間人でも殺人と略奪が横行する世界。  占い師の言葉は不明瞭なことが多く、そもそも“花が増えるとどのように世界が破滅するのか”を彼女は一切断言しなかった。それがかえって憶測を呼び、人々の恐怖心を掻きたてて暴走させてきたとも言えるだろう。同じ場所で黄色の花が十輪咲いたらその大地が腐る、だとか。あるいは大量の花とともに疫病が蔓延して世界が滅ぶ、とか。もしくは花の力で天変地異が引き起こされて、大地が引き裂かれるだなんて言う人もいる。たまたま病気になった人の近くに黄色の花があったら、全て黄色の花が元凶ということになった。事故でも同じだ。実際に、証拠も根拠もあるわけでもないのに、である。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!