92人が本棚に入れています
本棚に追加
/152ページ
ああ、あの匂いを嗅いだんだ。
俺は今更ながら実感し、胸が苦しくなった。
嫉妬と、焦りと、悲しさが、グルグルと渦を巻くようにして俺を飲み込もうとする。
それに必死に抗い、立っているのがやっとだった。
「ごめん、小田。」
黒木課長の言葉に驚いて、俺はそちらを見る。黒木課長は俺の目を見て
「ごめん。」
ともう一度言った。それは、子供の宝物を壊してしまった父親のような目だった。
昨晩の黒木課長を思い出す。
俺の食欲を確認して安心し、俺を「すごく、いい」と励まし、俺をからかって笑っていた。
嫉妬する自分が情けなくなる。
最初のコメントを投稿しよう!