第一章『産土神の隠れ社』

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 ひとしきり泣いて落ち着いた東さんは澄彦さんから身体を離して、照れくさそうに顔を伏せる。  その角度から見た顔が南天さんにそっくりで、涙腺が緩み切っている私は泣く。  もらい泣きを続ける私と気遣う玉彦に視線を向けた東さんは、怪訝そうに澄彦さんに尋ねた。 「こちらの方々は……」 「次代の玉彦と、嫁の比和子です。光一朗の娘、ですよ」 「たっ、玉彦様!? えっ……大きくなられて……えっ? 大きくなられて……。そう言えば澄彦様も……大きくなられて?」 「僕の場合は老けたと言うべきでしょうね。もう東さんの年齢を追い越してしまいましたよ」 「えっ……あの……? もしかして?」  驚愕して瞳孔を揺らがせた東さんは全てを悟って、再び両手で顔を覆う。  彼女の中では数か月だったとしても、外の世界では数十年が過ぎていたのだと知ったのだ。  私たちは東さんに掛ける言葉も無い。  何を言っても現実は変わらない。  過ぎ去ってしまった時間は戻らないのだから。 「主人は……」 「生きてます。ぴんぴんしてますよ」 「南天は」 「嫁を迎えて息子も生まれましたよ。高校一年生です」 「豹馬はっ」 「豹馬も昨年嫁を迎えて元気ですよ」 「何年、私は一体何年行方不明だったのですかっ!?」 「……二十年、近くです」 「あっ……ああああっ……っ」  泣き崩れた東さんに私は思わず駆け寄って抱きしめ、一緒に涙を流した。  家族と離れていた、そして自分だけ取り残されていた二十数年。  思うところは沢山あるだろう。  でも今は、前を向いて欲しい。  これからが東さんには待っている。
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