第一章『産土神の隠れ社』

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 それから。  再び落ち着きを戻した東さんに、澄彦さんはこれからの事を告げ、選択を委ねた。  現実へ戻れば何らかのリスクが身体に起こるかもしれないこと。  そしてもし戻るのが怖いのなら、宗祐さんが隠れ社で一緒に過ごす覚悟でいること。  それを聞いた東さんは、迷わずに現実へ帰還することを選んだ。  宗祐さんに会いたいのは勿論のこと、たとえ現実世界に戻って身体が急激に衰え肉体が耐えられなかったとしても、一目息子たちに会いたいと。  東さんの覚悟に頷いた澄彦さんは、懐から小太刀を取り出し、左手のひらに傷を作った。  流れ落ちる血を手拭いに滲み込ませて、東さんの手首にしっかりと巻き付け結ぶ。    こうすることできっと産土神の隠れ社から脱出できる。  ちなみに東さんは隠れ社に迷い込み、目の前に神社があったので一先ず失礼が無いように手水場で手口を漱ぎ、エプロンにあった布で拭おうとして、澄彦さんの血が付いた布を洗ってから使用したそうだ。  もし血液を洗い流していなかったら、と考えてしまう。 「さてさてー。あとはどこへ出口が繋がっているかだなー」  東さんの手をしっかりと握った澄彦さんが鳥居をくぐり抜け、玉彦と私も後に続く。  そして振り向けば。  拝殿前のお賽銭箱の前にどかりと腰を下ろし、酒豪のTシャツを着た神様が札束と盃を掲げていた。 「きっと安全なところに出られるんじゃないですかね」 「そうだと良いんだけどね」  僕はいっつもとんでもない所に放り出されたんだよ、と澄彦さんが憎々し気に呟くと、玉彦は普段の行いが悪いからだと呟き返した。  そして東さんは相変わらず澄彦様は澄彦様なんですねぇと苦笑いをする。  この苦笑いが隠れ社から出て、正武家屋敷の裏門前で満面の笑みに変わったのは数分後。  裏門前で車をスタンバイさせて連絡が入るのを今か今かと待ち構えていた宗祐さんと息子たちを見てからだった。
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