第二章『いつかこういうことが起こると思ってた』

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「どうだった?」 「どうもこうも……。須藤の家から屋敷まで身体を伸ばしていたようだ」 「はっ?」  須藤くんのお家からお屋敷までは数キロもある。  その前に身体って、そんなに伸びない。  あれほど大きな頭だったから普通では無いものとは思ったけれど、身体が伸びるって一体。 「ろくろ首みたいな感じ?」  妖怪で首が物凄く伸びる女性である。  以前玉彦から渡された妖怪大百科にあった挿絵では首は伸びてはいたけれど、巨大化するとは書かれていなかったはずだ。  連れだって部屋へと戻り、汚れた足を縁側で拭う玉彦は小難しい顔をしていた。 「祓うの?」 「あれは祓うものではない」 「じゃあどうするのよ。てゆうか、何だったの?」 「生霊が高女(たかじょ)のようになったのだろう。須藤が解決するしかあるまい」 「たかじょ? 学歴が高いってこと?」 「男に相手にされない女がああなる。生霊と化してあのような姿になったのであろう。勉強になった」  後日、高女について私がネットで調べたところによれば、二階を覗く下半身を伸ばした女の人で、主に遊郭を覗いていたらしい。  覗くだけで危害は全くない妖怪だった。というか妖怪と言って良いものか疑問である。  玉彦が教えてくれたように男性に相手にされない女性が化けてしまうそうで、総じて醜女だそうだ。  須藤くんの彼女はそういう感じじゃなかったし、当て嵌まるのは相手にされない、ってところだけだ。  翌日疲れ果てた須藤くんがお屋敷に戻り、何とか彼女を説得出来たけれど、なぜか玉彦に口裏合わせを頼んでいた。  台所の片隅で二人の会話に耳を欹てていれば、どうやら昨晩の彼女は生霊として聞いていた玉彦の『俺のことが大好き』発言が本体に戻っても絶大なインパクトを残していたようで、本来なら生霊となっていた時の記憶はないのだけれど、心のどこかに残っていた彼女は須藤くんに問い質したそうだ。  そして須藤くんは苦し紛れに、玉彦のことが好きで忘れようとして女の子と付き合うけれど長続きしないのだ、と彼女に告げたそうである。
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